苦労人に初の五輪が見えてきた。男子大回転で石井智也(28=ゴールドウイン)が3大会ぶり3度目の優勝を飾り、18年平昌五輪代表に大きく前進した。1本目にただ1人、54秒台の54秒50でトップに立つと2本目も51秒86で最速タイムをマークし、合計1分46秒36で完全優勝。1月6、7日のW杯大回転(スイス)で日本勢が8位以内に入らなければ、石井の五輪出場が決まる。
最後まで冷静だった。2本目、ゴールした瞬間、石井は右手を軽く上げただけ。11月に1本目に好成績を出しながら、2本目に失敗したレースがあった。それ以来、今季の目標は「冷静に平常心」。「同じ後悔はしたくない」と気負わず五輪をぐっと引き寄せた。
冷静だったが、少しずつ実感はわいた。「子どもの頃から五輪は目標だった。うれしい」。人口約3400人の北海道歌志内市生まれ。日本で最も人口が少ない市で、子どもの頃の遊びといえばスキーだった。その夢が迫っている。
16年12月にオーストリアの大会で、左ひざの前十字と外側側副の2本の靱帯(じんたい)を断裂した。「終わったと思った」。しかし、手術とリハビリを乗り越え、今年11月にはレースに復帰。その後、わずか1カ月で五輪へのチャンスをつかんだ。
ジュニア時代は北海道・北照高の先輩で06年トリノ五輪4位の皆川賢太郎、日本人最多のW杯表彰台3度の佐々木明を上回る逸材と言われた。09年世界ジュニア選手権の回転で3位に入り、日本男子史上3人目の表彰台に立ったが、その後、右ひざ靱帯損傷、腰椎ヘルニアなど、けがを多発。「なかなか滑れなくなった」ことで、15-16年シーズンから全日本スキー連盟の強化指定からも外された。
活動費に困り、クラウドファンディングで資金を募集したこともある。そんなけがや苦労を乗り越え、やっと夢をかなえる時が来る。「出るだけじゃなく、結果を残すのも目標」。苦労人が五輪で世界を驚かせる。【吉松忠弘】


