早大のSO岸岡智樹(3年)が、大学ラグビー史に残るロングDGを決めた。0-0で迎えた前半25分、ドロップアウトで相手のドロップキックとなったボールをFB河瀬がキャッチ。その河瀬から自陣10メートル付近でパスを受けた岸岡は、4~5メートルほど助走して思い切り右足を振り抜いた。
高く上がったボールは上空に吹く風にも乗って相手ゴールに向かい、きれいにゴールポストの間に吸い込まれた。スコアが動くとともに劣勢だった早大は息を吹き返し、5分後にはモールを押し込んで初トライ。前半のリードで慶大とのライバル対決を制した。
「ワンチャンスだったけれど、入ってうれしい。まぐれです」。岸岡は照れながら言った。夏合宿では20メートルほどのDGを決め、練習では40メートルから蹴ったこともあるが「50メートル以上はやったのも初めて」。それでも、相良監督は「想定外。ワールドクラス」と絶賛し、フッカーの宮里は「何やってんだ? と思った。天才しかできない。あれで、(劣勢だった)ムードが変わった」と振り返った。
部員の中でただ1人、教育学部数学科で学ぶ岸岡。激闘の中でも、頭はクリアだった。ドロップアウトからのチャンス。「もし外しても、またドロップアウトになるだけ」。リスクの小さい挑戦だからこそ、パスを受けた時には「やろうと決めていた」。瞬時の判断が試合を動かした。
風も味方した。「少しずれたけれど、うまく風に乗った」。前日、故郷の大阪に冬の訪れを告げる強い北風「木枯らし1号」が吹いた。東京に吹くことも予想されたこの日、前半の早大は北から南に攻めていた。「計算なんかしていませんよ」と岸岡は笑って否定したが、上空の「木枯らし1号」を予想してのチャレンジだったかもしれない。
岸岡は正確なキックと抜群の状況判断で完璧なエリアマネジメントもやってのけた。苦戦が予想された慶大戦を「今までで1番のでき」で勝利した。次は優勝のかかる明大戦。「60メートル? 狙うかもしれません」と「天才SO」は笑った。
89年の日体大戦ではFB今泉清が50メートル弾を決めているが、55メートルは創部100周年を迎える早大の歴史の中でも例がない。常識外れの飛び道具、ライバルたちに見せただけでも早大の大きな武器になる。



