地元中国で絶大な人気を誇り「スノープリンセス」と呼ばれる18歳の谷愛凌(コク・アイリョウ、中国=米国名アイリーン・グー)が2冠を達成した。フリースタイルスキー女子ハーフパイプ決勝を188・25点で制覇。ビッグエアの金、スロープスタイルの銀に続く3つ目のメダルを手にした。米国人の父と中国人の母を持ち、米国で生まれ育った。母の出身地で行われる五輪へ、国籍変更して立った舞台。今大会の最大のスター選手には、中国の熱狂とともにさまざまな声も聞こえてくる。

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北京に滞在して18日目。一日たりともこの選手の顔を見ない日はなかった。テレビをつければ、五輪スポンサーCM多数に「アイリーン・グー」という名前が連呼。移動のバスから見える看板にも、大会のグッズショップの袋にも、どこでも「プリンセス」だらけだ。そして今日も。

18日、今大会3種目となった谷は圧倒劇で2つ目の黄金の輝きを手にした。決勝は最終3回目の滑走前に優勝が決まり、ビクトリーランで締めた。「簡単ではなかった。言葉にできないほど名誉なことで、夢が実現した」と感慨に浸った。

8歳の時、北京大学でコーチを務める母の手ほどきで競技を開始。当時から中国にたびたび帰国しており、中国語も流ちょうで、好物は北京ダックや羊のしゃぶしゃぶだという。モデルとしても活動し、文武両道で難関の米スタンフォード大に合格した。

その活躍に国威発揚と絡めた宣伝もみられ、短文投稿サイト微博(ウェイボ)のフォロワーは、期間中に約170万人増え500万人超に。五輪や谷と関係がないのに、企業名に「谷」が入っているという理由でIT企業の株価がストップ高になる現象も起きた。

19年に15歳でW杯を制すると、米国代表から中国代表に転じると表明した。共産党系の北京日報は「熱愛による決断」だったと強調。国営通信新華社は「これぞ中国の若者」と称賛。本人は「中国のほうがホーム」とし、米メディアからの「国籍変更は裏切りだ」という批判の声にも「米国には感謝している」と返した。

中国は二重国籍を認めないが、谷は米国の旅券を保持しているかどうか明言を避けている。特別扱いをされている可能性もありながら、人気は上昇するばかり。この日の会場でも、その滑りに中国国旗が振られていた。

◆谷愛凌(米国名アイリーン・グー) 2003年9月3日、米国人の父と中国人の母の間にサンフランシスコで生まれる。スキーのコーチだった母の影響でスキーを始め、15歳の時にW杯スロープスタイルで初優勝。昨年の世界選手権ではHPとスロープスタイルで優勝した。175センチの長身でモデルとしても活躍、五輪後はスタンフォード大進学も決まっている。