北京から連日、パラリンピックの熱戦が伝わってくる。6日にはアルペンスキー女子の村岡桃佳が前日に続いて金メダルを獲得。冬夏二刀流の活躍が、うれしくなる。
日本勢の活躍を喜びながらも心に引っかかるのは、ウクライナ情勢。「政治とスポーツは別」と言われるが、今回は違う。「平和の祭典」は戦争を意識しながら行われている。
5日のバイアスロンでは、ウクライナが大活躍した。金メダルのボウチンスキーは「祖国の人々にささげる」と涙した。友人の佐藤圭一は「僕たちのレースで平和をアピールしたい」と真剣な表情で話した。選手たちも厳しい状況を意識する。
大会の「原点」には、戦争がある。起源は、第2次世界大会で傷ついた兵士のリハビリのため、英国で行われたスポーツ大会。それが国際大会となり、発展してパラリンピックとなった。
もともと「負傷兵」のための大会。1964年東京大会には、日本選手団にも傷痍(しょうい)軍人がいた。戦って傷を負った兵士が、今度は選手としてスポーツで競い合う。「共生」の前に、まず「平和」を願う強い思いがある。
近年、元軍人は減ってきている。とはいえ、世界各地でのテロや紛争などで負傷した兵士の参加はまだまだ多い。昨年の東京大会にも、今回の北京大会にも、戦争を経験した選手がいる。だからこそ、五輪以上に平和を意識する場が多い。
パラトライアスロンの元世界女王メリッサ・ストックウェルはイラク戦争で左脚を失った元米国兵士。東京大会選手村でピンバッジを交換しようとしたイラク選手から謝罪された。「謝る必要なんかないわ」と言い「イラクに友人は?」という問いに「いるわ。あなたよ」と答えたという。このSNSでの発信が、世界中を感動させた。
五輪やパラリンピックでは「政治的な発信は禁止」だが、平和は強く発信してほしい。タブーがないことは、開会式のパーソンズ会長のスピーチにも表れていた。国連の休戦決議に反したロシアの暴挙を断罪し「敵との争い」ではなく「仲間との競い合い」を求めた心に刺さる言葉だった。
残念なのは、今大会の開催地が中国だということ。国連のロシア非難決議を「棄権」した中国では、名スピーチの一部を訳さなかったという。総立ちで拍手を送りそうな観客も、反応に困っていたようにも見えた。
パラリンピックの期間中、選手たちは平和を求めて発信を続けるはず。それは、今大会の大きなテーマでもある。戦争が起きている中、あえて行われる「平和の祭典」だからこそ、役割がある。
あとは、選手たちの発信がロシアや中国を含む世界中にストレートに伝わることを願う。個々の発信が1つになり、増幅されて為政者に届けば、世界が変わるきっかけになると思うのだが。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)