東京オリンピック(五輪)のチケット、いったいどうやって当たったの? そんな疑問を持っている人も多いはず。有名人も続々と当選を公表しているが、「ひふみん」こと将棋の加藤一二三・九段(79)は長考の末、候補を絞り込んだ。「見て楽しそうな競技で、平日夜の都内開催」。この作戦で、7月27日の男子バレーボール予選のチケットが当選した。55年前の東京五輪を生で見た記憶はあやふやで、事実上の初体験。ネットを挟んでの攻防が将棋と似ている球技の観戦を、楽しみにしている。

「(東京五輪にむけて)もっとバレーボールの勉強をしたい」と意気込む加藤一二三九段は、手作りの駒に「とどめは金」と記した(撮影・浅見桂子)
「(東京五輪にむけて)もっとバレーボールの勉強をしたい」と意気込む加藤一二三九段は、手作りの駒に「とどめは金」と記した(撮影・浅見桂子)

ひふみんは考え込んだ。将棋の盤上で指し手を読むかのように、五輪の日程表とにらめっこする。棋士として、勝利への手順を熟考すること62年のキャリアがある。盤の反対側から見る「ひふみんアイ」は、日程表ではさすがに使えなかったが、妙手をひねり出した。

選んだのは開会式、閉会式、男子の陸上、競泳、サッカー、卓球、バレーボール。平日の夜に都内で行われる種目に絞った。「これらは見ていて楽しそうですから」と、選考理由を説明した。総額30万円ほどの表示があったという。その中から、バレーが当選したとの連絡を受けた。

「大がかりなスポーツイベントの競技を、生で観戦できるのはうれしいこと。55年前に比べて種目も増えていますし、これから勉強してどんな競技が強いのかも調べます」と意欲的だ。今年夏、あるテレビのクイズ番組に出た際、五輪開催都市の追加種目として提案されたのは○○ダンスとの出題があった。「答えはブレークダンスだったのですが、私は社交ダンスと答えて間違えました」。勝負師として悔しい思いをした。正解手を徹底的に突き詰めないと済まないタイプ。競技のルールをはじめ、選手、戦法などを研究したいと考えた。

前回開催の印象として残っているのは、やっぱり大松博文監督率いる「東洋の魔女」。金メダルに輝いた女子バレーボールだ。唯一、1セット落としたポーランド戦は、テレビで見ていたという。観戦する男子は72年のミュンヘン(ドイツ)で金メダルを獲得しているが、「やはり、東京の時の方が思い出深い」と話す。

バレーボールで遊ぶ加藤一二三九段(撮影・浅見桂子)
バレーボールで遊ぶ加藤一二三九段(撮影・浅見桂子)

バレーは小学校入学後に夢中になっていた。川上哲治氏の赤バットの時代。野球に熱中するかたわら、校庭のコートや円形になって楽しんだ。「レシーブ、トス、スパイクと、リズムのある攻撃が面白い。特にスパイクをビシッと決めた姿はかっこいいと思いました」。

ひふみんによると、攻防がある勝負事の球技は将棋に似ているという。各ポジションの選手は、駒の動きと似ている。バランスの取れた攻めと守りが、勝利にも直結すると読んでいる。

バレーの場合、サーブ権がある方が「先手」。ネットの向こうの敵陣を見て、どこに打ち込むかを決める。ネット際なのか? エンドラインぎりぎりか? サービスエースで1点取れれば、相手に与えるダメージが大きいからだ。

サーブをレシーブする側の「後手」は対応を考えて得点を狙う。誰が拾い、クイック、時間差などの攻撃を選んで切り返す。このため、6人がフォーメーションでコート内を動く。

サーブを拾われた先手は、ブロックに前衛の選手が何人跳んで、後手のどの選手がどのコースに打ってくるのかヤマを張る。ブロックできなかった場合、レシーブの陣形を含めて後手の攻撃をどう守り、攻撃に結び付けるのかもコート上で考える。

先手→後手のラリーが何度も重なれば、どちらもが「3手1組(ブロックに掛けて切り返す場合は4手)」の手段を講じ、相手の急所を突く。動かすのは体だけではない。読みを入れるため、脳みそもフル回転させる。

「データを基にお互いの攻め手を考えながら、球を動かすのは面白いと思います。もちろん、出る以上は金メダルを獲得してほしい。勇気を持って、相手の面前で弱気を出さず、慌てないで落ち着いて戦うという、旧約聖書の言葉を贈ります」。今から競技が待ち遠しそうな口ぶりだった。

ちなみに、個人的に注目しているのは柔道男子66キロ級の阿部一二三(22=日体大)。「名前が同じですし、優勝候補でしょう? ぜひとも金メダルを」と期待していた。【赤塚辰浩】

■ボクシングも印象に

64年の前回、もう1人印象に残っているのは、ボクシングのバンタム級で金メダルを獲得した桜井孝雄さん(故人)だという。

64年東京五輪ボクシングバンタム級で金メダルを獲得した桜井孝雄さん
64年東京五輪ボクシングバンタム級で金メダルを獲得した桜井孝雄さん

「会場の後楽園ホールで見ていたか、テレビで見ていたか」と、記憶はあいまいだったが、歴史に残る名ボクサーの戦いぶりは今でも目に焼きついている。それと、旧将棋会館を報道陣が使っていたことも覚えている。「国立競技場に近かったから、取材本部にしていました。今回も使ったらいいのですが」と、提案した。

◆加藤一二三(かとう・ひふみ)1940年(昭15)1月1日、福岡県生まれ。54年8月、14歳7カ月で四段となりプロに。この史上最年少記録は藤井聡太現七段が2016年10月に14歳2カ月でプロになるまで62年間破られなかった。60年、20歳で名人戦挑戦者としてタイトル戦初登場。82年、念願の名人になる。タイトルは合計8期獲得。通算1324勝1180敗。通算対局数1位。17年6月現役引退。現在は芸能活動を行いながら、仙台白百合女子大客員教授も務める。熱心なキリスト教徒で、11月に東京ドームで行われたローマ教皇フランシスコのミサにも参加した。

五輪チケット販売の流れ
五輪チケット販売の流れ

■多くの芸能人も喜びの報告

ひふみんのほかにも、多くの芸能人が東京五輪のチケットをゲットしたことをブログやツイッターなどで明らかにしている。

プロゴルファーでタレントの東尾理子(44)は6月21日に更新したブログで、「私が行きたかったカヌースラロームやBMXや卓球は外れたけど、サッカー決勝や野球準決勝など複数当選した」と報告した。

また、「爆笑問題」太田光(54)の妻で所属事務所社長の太田光代氏(55)は同月20日、自身のツイッターで陸上競技のチケットに当選したことを明かした。「観たかったんだ~槍投げとか砲丸投げのやつ」と喜んでいた。このほか、サバンナの高橋茂雄(43)は「柔道あたった」とツイッターでつぶやいていた。

当選した種目などについて明らかにはしていないが、タレント指原莉乃(27)はツイッター、ベッキー(35)はインスタグラム、歌舞伎俳優の市川海老蔵(42)はブログで、それぞれチケットが当たったことを報告している。


■「新聞社ならあるんでしょ」記者は友人からねだられ

申し込み初日から2日目の夜まで粘ったかいあって、30枚の申し込みで、ソフトボール3位決定戦4枚が当選した。あの時はサイトが渋滞していて苦労したが、途中で断念しても「もうやらなくなる」と思い、意地になっていた記憶がある。何度も画面とにらめっこ。結局最後は「何頼んでたっけ?」と思うぐらいだったような。

5月、チケット申込に苦戦する松熊記者
5月、チケット申込に苦戦する松熊記者

周りの人は、ことごとく外れており「自分は運が良かったんだ。いいこともあるもんだ」と、宝くじに当たったような気分になった。ただ、まだ見たい競技もあるし、1度当たってもOKとのことで、先日の第2次抽選もしっかりと申し込み。18日の結果が楽しみだ。新聞社に勤めていると「チケットあるんでしょ? 回してよ」なんて言われるが、そんなものはない。もちろん取材で会場入りする記者はいるが、全員が入れるわけではなく、社員もみんなガチンコで勝負しています。

2次抽選が終わり、今後は春の一般販売とリセールに最後のチャンスをかける。サイトのアクセスはもっと集中する可能性がある。あまり残ってない運をソフトボールでかなり使ってしまったが、次にいつ日本で行われるか分からない五輪。お財布事情は厳しいが、できるだけたくさんの競技を見に行ってみたい。【松熊洋介】