今夏の東京オリンピック(五輪)に向けたバレーボール男女日本代表の活動が、本格化している。本大会メンバーになれるのは、代表候補24人中わずか12人。来月1、2日に東京・有明アリーナで行われる中国との国際親善試合を皮切りに、生き残りを懸けた選考サバイバルが展開される。中心的な選手となる女子の古賀紗理那(24=NEC)と男子の柳田将洋(28=サントリー)を紹介しながら、五輪までの道のりをたどる。【取材・構成=平山連】

18年10月、女子バレーボール世界選手権アメリカ戦でスパイクを放つ古賀(左)
18年10月、女子バレーボール世界選手権アメリカ戦でスパイクを放つ古賀(左)

<古賀紗理那> エースの自覚

古賀は、今季の女子Vリーグ1部で362得点と日本人最多得点をマークした。女子代表の中田監督から「日本のバレーは拾ってつないで、最後は黒後、古賀に託す」と、厚い信頼を寄せられる選手の1人だ。

熊本信愛女学院高時代から全日本メンバーに名を連ねる逸材。16年リオデジャネイロ五輪直前には、代表落ちを経験した。折れかけた心の支えになったのは、当時主将だった木村沙織さん。涙を流しながら「紗理那、絶対に埋もれちゃダメだよ」と言ってくれた。その言葉が、気持ちを奮い立たせた。コートに立つ際は毎回、自分の課題と向き合うことを欠かさなかった。

エースの立ち居振る舞いは、17年から代表監督に就任した中田監督から学んだ。以前、プレーが思うようにいかず練習中に涙を流すことがあった。中田監督から「紗理那、日本のエースは絶対に人前で泣いちゃだめだ」と諭すように言われた。それ以来、涙を封印した。指揮官からは、本年度の副キャプテンに指名された。当初は戸惑いつつも「やるからには精いっぱいやりたい」と覚悟を決めた。

立場も新たに本大会に向けて準備していく。やることは変わらない。期待を一身に背負う24歳の口ぶりからはエースの自覚が漂う。「コートに私がいなきゃダメだと周りに思ってもらえるように、チームの軸になりたい」。一皮むけた古賀が、目標に掲げる五輪でメダル獲得へ導く。

2月、Vリーグ女子のJT戦でガッツポーズするNEC古賀(共同)
2月、Vリーグ女子のJT戦でガッツポーズするNEC古賀(共同)

◆古賀紗理那(こが・さりな)1996年(平8)5月21日、佐賀県神埼郡生まれ。ポジションはアウトサイドヒッター。5歳で熊本に引っ越し、小2で本格的に競技を始める。大津中、熊本信愛女学院高と進み、高2から全日本女子代表。卒業後はVリーグのNECに入団し、以来主軸として活躍している。好きな芸能人は松本人志。ギターを弾くことがマイブーム。180センチ、66キロ。最高到達点307センチ。

【女子代表の活動日程】

◆5月1日 中国と国際親善試合(東京・有明アリーナ)

◆5月28日~6月23日 国内合宿を経て、「ネーションズリーグ(イタリア・リミニ)」

◆6月26、27日 「ネーションズリーグ(イタリア・リミニ)」ファイナル

→出場権獲得の場合のみ。

◆6月下旬以降 女子代表12人発表。直前合宿を経て東京五輪に臨む。

19年6月、男子ネーションズリーグのアルゼンチン戦で柳田はハイタッチ
19年6月、男子ネーションズリーグのアルゼンチン戦で柳田はハイタッチ

<柳田将洋> ピーク知る男

代表の中心選手でありながら、慢心は一切ない。アウトサイドヒッターの柳田は「まずはしっかりとメンバーに生き残る」と、ライバルたちとの代表争いへ気持ちを引き締めた。

昨年3月までドイツ1部リーグのユナイテッド・バレーズでプレー。今季は4シーズンぶりにサントリーに復帰した。強烈なサーブや決定率57・8%のバックアタックなどで得点を重ね、チームに攻撃のバリエーションをもたらした。さらに海外で実感した「互いに主張する大切さ」をチームに浸透させた。コート内外で存在感を放ち、14シーズンぶり8度目のリーグ優勝の原動力になった。

優勝の瞬間は、感極まって涙を流した。チームディレクターの栗原圭介さんの思いに応えることができたからだ。海外挑戦中も毎シーズン、会いに来てくれた。「もう1度(サントリー)サンバーズを強くしよう」「いつでも待っている」。その際は国内復帰の熱烈なオファーを受けた。ドイツやポーランドを渡り歩き、今季から復帰。やっと恩返しができたという思いが、大粒の涙となってあふれ出た。

栗原さんは「マサが戻って、練習や試合前の準備が早くなり、試合中も落ち着いて入れていた」とチームの変化を明かした。「いちバレーボールファンとして、柳田将洋がどれだけ五輪で活躍するか楽しみです」とエールを送った。

五輪開幕まで100日を切った。柳田は「思い描いたステップを踏めている」。メンバー入りを果たし、今夏にピークを持って行く。

◆柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)1992年(平4)7月6日、東京都生まれ。両親の影響で7歳で競技を始め、東洋高3年時に選抜大会優勝。慶大に進学後、14年にサントリー入団。17年に退団後にプロ転向し、海外挑戦。ドイツ時代には「ハンター・マサ」の愛称で親しまれた。今季古巣に復帰し、14シーズンぶりのリーグ優勝に導いた。186センチ、79キロ。最高到達点328センチ。

【男子代表の活動日程】

◆5月1、2日 中国と国際親善試合(東京・有明アリーナ)

◆5月8、9日 代表紅白試合(群馬・高崎アリーナ)

◆5月28日~6月23日 国内合宿を経て、「ネーションズリーグ(イタリア・リミニ)」

◆6月26、27日 「ネーションズリーグ(イタリア・リミニ)」ファイナル

→出場権獲得の場合のみ。

◆6月下旬以降 代表12人発表。直前合宿を経て東京五輪に臨む。

<代表選考展望>

両代表は、約1年7カ月ぶりの中国との国際親善試合後、来月下旬から男女各16チームで争う「ネーションズリーグ」(イタリア・リミニ)に参加する。総当たり方式の予選ラウンドでは上位4チームが決勝ラウンドに進む。高さのある海外勢と実戦経験を養う貴重な機会になりそうだ。

2021年度の女子日本代表登録メンバー
2021年度の女子日本代表登録メンバー

女子は3月1日から国内合宿を開始。4大会連続出場を目指す主将の荒木をはじめ、黒後、石川、古賀といった今季好調だった選手ら18人が招集された。海外勢の高さを想定して男子の練習パートナーを用意し、準備を重ねた。選考で重視する点について、中田監督は12年ロンドン以来のメダルを見据え「自ら考えてチャレンジする選手が最低条件ではないか」と話す。

2021年度の男子日本代表登録メンバー
2021年度の男子日本代表登録メンバー

一方で男子は今月5日から国内合宿をスタートした。中国戦後の来月8、9日には紅白試合(群馬・高崎アリーナ)を行う。今季から柳田から石川へと主将をバトンタッチ。中垣内監督は「(石川は)コート内でもリーダーシップをさらに発揮してほしい」と期待。ベテランと若手の融合で、72年ミュンヘン以来の歓喜を誓う。

<14年から一貫育成 プロジェクトコア>

「Project Core(プロジェクトコア)」。バレーボール協会は東京五輪とその先の未来を目指し、次世代の有望株発掘や育成を柱に推進してきた。そのプロジェクトが見据える大会が間近に迫る。これまで選ばれたメンバーの中には、男女で中心となる選手も少なくない。強化委員長の鳥羽賢二氏(62)は「ユースからシニアへと一貫した育成につながっている」と話した。

プロジェクトが発表されたのは2014年。東京大会のみならず、24年パリ、28年ロサンゼルスを見据え、当初は年度ごとに強化選手を選出するなど積極的な運用がされていた。14年度から16年度に選出されたメンバーのうち、現代表候補に名を連ねるのは男子6人(柳田、石川、大竹、小野寺、高橋健、山内)、女子4人(古賀、黒後、宮下、井上愛)。ただ、それ以降は代表選出に関して、記録が残っておらず、どんな活動をしていたのか不透明な部分がある。

新型コロナウイルスの影響で、19年度以降のユース選手の育成も停滞感が否めない。それでも鳥羽氏は「2大会先に向けた取り組みが合言葉になった」。東京大会の成績次第で、プロジェクトの行方が大きく変わりそうだ。

◆石川欠場 石川祐希(25)は、来月1、2日の中国との国際親善試合には出場しない。中垣内監督が26日明かした。25日(日本時間26日)のミラノ最終戦に臨み、合流が遅れたため。