運命の切符は-。陸上の日本選手権が24日から4日間、大阪・ヤンマースタジアム長居で開催される。最大3人の東京オリンピック(五輪)代表権を巡る最終選考会は、優勝した選手が無条件で代表に内定するわけではない。参加標準記録(100メートルは10秒05)を突破しているか、大会の順位や記録をポイント化した世界ランキングが各種目で定められた順位(ターゲットナンバー)内に入っていることが第1条件となる。ガラリ変わったルールの中で、注目される8種目の代表争いを解説する。【上田悠太】

男子100メートル代表争い
男子100メートル代表争い

<男子100メートル>ミス命取り

花形の男子100メートルは史上最高にハイレベルで、スリリングな戦いになる。自己ベスト9秒台は山県亮太、サニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、小池祐貴の4人。それに6日に10秒01をマークした多田修平を含めた5人が、東京五輪の参加標準記録10秒05を突破済み。この5人は「3位以内」に入れば、代表に決定する。裏を返せば、2人は落選する。事実上、決勝の“一発勝負”。0・01秒が天国と地獄の境界線となる可能性も十分にある。まさに1つのミスが命取りだ。

ケンブリッジ飛鳥は昨年8月に自己新の10秒03を出したが、それは参加標準記録の対象外期間だった。世界ランキングでも圏外で、まず日本選手権で10秒05を上回るタイムで走らなくては、代表の可能性はない。

優勝争いは6日の布勢スプリントで9秒95の日本新を出した山県が中心だろう。大舞台での強さも際立つ。前日本記録保持者サニブラウンは19年秋の世界選手権以来、約1年7カ月ぶりとなった先月31日の実戦で、追い風参考3・6メートルの条件下ながら10秒25と少し不安を残した。拠点は米フロリダ州で隔離期間もある。

5月下旬に右アキレス腱(けん)を痛めた桐生だが、布勢の予選では追い風2・6メートルの参考記録ながら10秒01を出した。連覇も懸かる日本選手権に、調子をどこまで整えられるか。小池は持ち味のスタートが好調時の姿に戻るか。不振を乗り越えた多田は、右肩上がりに調子を上げ、勢いがある。ケンブリッジは今季、左脚の違和感に悩む。

◆日本選手権男子100メートルの過去5年の優勝タイム 10秒0台が3度で、17年サニブラウン10秒05、18年山県10秒05、19年サニブラウン10秒02(大会新)。リオデジャネイロ五輪の選考会だった16年はケンブリッジが10秒16、コロナ禍で秋開催だった昨年は桐生が10秒27で制した。

東京五輪代表選考の流れ
東京五輪代表選考の流れ

<男子200メートル>ポイント欲しい山下

参加標準記録をクリアしているサニブラウンと小池は3位以内で代表権を得る。同記録に届いていない飯塚だが、世界ランキングでは45位と安全圏。3位以内に入れば、ほぼ確実に代表権を手中にするだろう。19年世界選手権代表の山下は現在52位で、ランキング圏内だが、世界のライバルの猛追を受ければ、56位以内から外れる可能性もある。優勝がベストだが、少なくとも3位以内は死守し、ランキングのポイントを上積みしたい。瀬戸際の白石は、5月に右太もも肉離れをしてしまい、どこまで回復できるか。

男子200メートル
男子200メートル

<男子110メートル障害>金井本命も争い熾烈

3位を外せば、代表落ちの可能性が高いサバイバルとなる。東京五輪後は歯医者を目指す金井が、4月の織田記念で13秒16の日本新をマークしており、Vの本命だが、他の選手もハイレベルだ。高山、泉谷も参加標準記録13秒32をクリアし、村竹、石川はランキングで圏外だが、日本選手権の成績次第で、出場資格に届く可能性が高い。好調なのは金井、泉谷、村竹。19年に日本新を連発した高山は今季まだ本来の走りではない。村竹と石川はランキングで当落線上にいるだけに、順位だけでなく好タイムも残しておきたい。

男子110メートル障害
男子110メートル障害

<男子400メートル障害>本命不在の大激戦か

参加標準記録48秒90を黒川、安部、山内、豊田の4人が突破している。ただ本命は不在で、まさに大激戦となる。黒川は黒ぶちメガネに、それがずれないように頭に巻くバンドがトレードマークの法大2年生。5月の東京五輪テスト大会で日本歴代10位の48秒68をマークし、突如として代表争いに名乗りを上げた。世界選手権4度出場の安部は実力一番も、春は故障が響き、後半に足が止まる場面が目立った。今季で集大成の覚悟である松下も好記録で優勝すれば、ランキングで五輪に届く可能性は十分にある。

男子400メートル障害
男子400メートル障害

<女子やり投げ>急成長上田逆転狙う

参加標準記録64メートル00を唯一、突破している北口は五輪出場が決定的な状況だ。昨季はさらなる進化を目指し、スピードが出る助走方法にした。ただ、うまくかみ合わない時期が続くだけに、本番へ向けて、弾みがつく結果としたい。自己記録62メートル88の佐藤はランキングで出場資格を得る当落線上。右肘は万全でないが、生き残りへ優勝しておきたい。デンカチャレンジ杯(6日)で日本歴代6位となる61メートル75を投げた福岡大4年の上田は急成長中で、好記録で頂点に立てば、大逆転の切符も夢物語ではない。

女子やり投げ
女子やり投げ

<男子走り幅跳び>3強脅かす存在なし

代表3枠のイスは、城山、橋岡、津波が確保する可能性が極めて高い。いずれも参加標準記録8メートル22をクリアしている。ランキングで出場圏内となる32位以内に届きそうな位置の存在はいない。山川、小田ら他の選手が3人を脅かすには、まず自己ベストを大幅に更新して参加標準記録をクリアする必要がある。橋岡は踏み切りの精度は欠くが、ファウルでも跳躍は飛距離がある。優勝の大本命で、はまれば大記録も。対抗の津波は徐々に調子を上げており、8メートル40の日本記録を持つ城山は不調をいつ脱せるか。

男子走り幅跳び
男子走り幅跳び

<女子100メートル障害>標準記録を狙う2強

寺田、青木、木村の3人はランキングで出場できそうな状況だ。参加標準記録12秒84はクリアが難しいと思われていたが、ともに寺田と青木が6月に12秒87の日本新をマークした。その差は0秒03まで縮まっており、「2強」は条件次第で突破もありうる。ランキング日本人3番手の木村は、後に続く海外ライバル選手とのポイント差が詰まってきており、日本選手権では表彰台はもちろん、少しでもいい順位、記録を残したい。6日に自己新となる13秒00を出した鈴木は、参加標準の突破が条件の厳しい立場。

女子100メートル障害
女子100メートル障害

<女子5000メートル>標準記録突破目指せ

昨年12月の日本選手権で田中が内定し、残りは2枠。そして男子1万メートルも含め、特殊な選考状況にある。参加標準記録を海外の多くの選手がクリアしたことで、世界ランキングでの出場枠がなくなった。辞退者が出ない限り、15分10秒00の参加標準記録を満たすしか、東京には出られない。田中以外の日本勢で突破済みなのは、ともに1万メートル代表に内定している新谷、広中の2人だけ。対象期間外の昨年7月に15分5秒78をマークしている萩谷らの他選手は、まず「15分10秒00」を切ることが最重要となる。

女子5000メートル
女子5000メートル

※ランキングは23日現在