羽生結弦(27=ANA)の94年ぶり3連覇はならなかった。ショートプログラム(SP)8位で迎えた決戦の冒頭、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦。転倒はしたが、回転不足の判定ながら国際スケート連盟(ISU)から初の認定を受けた。14年ソチ、18年平昌大会を2連覇した男の3度目の五輪は4位。初のメダルなしを悔しがるが、新たな歴史の1ページは開いた。

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アイスホッケー女子日本代表のエキップメントマネジャーとして北京五輪に参戦しており、長く羽生のスケート靴のエッジ(金属の刃部分)を研磨してきた技術者の吉田年伸さん(49)。

昨年末の全日本選手権で優勝し、北京五輪代表に決まった会見で「五輪3連覇の権利を持ってるのは僕だけ」と彼は言いました。世界に1人だけ、許される言葉。その最高の足元を支えている、携わらせていただいているのは光栄ですね。

09年から約13年の付き合いです。カナダにいたころは国際宅配便で月に2回ほど1、2足を。通算で300回弱は磨いてきたでしょうか。「もうちょっとエッジ効くようにしてください」とか「バランスポイントどこになってますか」「トーロック、センターロックは今、何フィートですか」と技術論を語れるほどの知識を彼は持っています。

夢である4回転半の成功へ、実はエッジの磨き方には特殊なことをしていません。フィギュアスケートはやっぱりアクセルだけじゃないですから。(4A用の)精度を上げるより、もっとエッジが抜けやすく、回りやすく、キレイに滑るための要求が羽生君からは多いですね。オールマイティーに全てのコンポーネンツ(構成)をこなすため、どうしたらいいか。(常に羽生本人が話しているように)4Aも含めた完璧な演技を目指しているからです。

スケートのエッジにはトー(つま先)とセンター(中央)とフィン(尻尾)にロックがあります。さらにインサイド、アウトサイドがあり、トーピックからトーロックに伸びています。彼の場合は前から後ろまでキッチリ摩耗して戻ってくる。そんな選手、本当に羽生君しかいませんね。例えば、スケート教室に通い始めた子は一切の摩耗がなくて、全日本選手権を目指すレベルの若い子で、真ん中の部分だけ摩耗します。トーロックまで、しかも内も外もエッジを摩耗させてくる選手は羽生君だけ。4Aの猛練習をしていることも摩耗の程度で分かります。

昨年から自分が日本アイスホッケー連盟の所属になったため、完全にスケジュールを羽生君に合わせてもらっています。世界中で僕だけじゃないでしょうか(笑い)。今回の北京五輪前は仙台で1月25日に最後の研磨し、先に自分から出発しました。北京には「羽生専用研磨機」を持ち込みます。何かあれば現地で磨けるし、すぐ近くで戦える。

羽生君は2回転のころから、ずっと見てきました。成功を信じるだけです。あとはもちろん、スマイルジャパンに(初の)メダルを取ってほしい。露出を増やし、国民の皆さんにアイスホッケーの楽しさを知ってもらえれば。(談)

羽生結弦のスケート靴の研磨に携わりながら、北京五輪ではアイスホッケー女子のスマイルジャパンのスタッフとして帯同する吉田年伸さん
羽生結弦のスケート靴の研磨に携わりながら、北京五輪ではアイスホッケー女子のスマイルジャパンのスタッフとして帯同する吉田年伸さん
男子フリーの演技を終え「ありがとうございました!」と深々と一礼する羽生(撮影・垰建太)
男子フリーの演技を終え「ありがとうございました!」と深々と一礼する羽生(撮影・垰建太)
男子フリーの演技を終えリンクを引き揚げる際に手につけた氷を顔にあてる羽生(撮影・垰建太)
男子フリーの演技を終えリンクを引き揚げる際に手につけた氷を顔にあてる羽生(撮影・垰建太)
羽生結弦のフリー詳細成績
羽生結弦のフリー詳細成績