私が96年アトランタ五輪、04年アテネ五輪の出場を決めた日本選手権男子100メートル決勝。それまで参加標準記録を切ってなかったのですが、スタートラインに立った時に何か自信があって、絶対大丈夫だと思っていました。結果は最後の決勝1本で、ギリギリ参加標準記録を切ることができました。

コーチとなって、最近、感じていることがあります。選手は「もっと調子に乗れよ」ということ。もちろん、何もやっていなかったら別ですけど。やりたい練習がしっかりやれたのであれば、スタートラインに立った時は、必ず結果を出せるという、えたいの知れない自信が大事。それは桐生祥秀を見てても思います。

桐生のパーソナルコーチとなり1年目の時は、こっちから与えるトレーニングをさせてしまっていました。追い風3・3メートルの参考記録とはいえ9秒87が出た。方法としてはよかったのかもしれないけど、桐生の中で練習の意味を消化できていなかった。その後。「何をやってきたのか記憶にないです」と言ったんです。完全に私の自己満足みたいな練習をさせていた。一定レベルから突き抜けさせるには、上から下に言うだけでは足りないのに。

桐生と組んで5年目の今は、納得いく練習ができているのかを一番大切にしています。やりたい方向へきちんと進んでいるか。その積み重ねがえたいの知れない自信にもつながると思います。車に例えると、昔は私が運転席に、後部座席に桐生が座っていたイメージでした。今は桐生が運転席でハンドルを握り、私が助手席で助言する感じです。

東京五輪。パーソナルコーチの立場からすれば、桐生には100メートル決勝のスタートラインに立ってほしい。可能性があるという問題ではなくて、絶対、残れるだけの実力はあるんです。後は強烈な自信に包まれて、スタートラインに立てるかどうかだけだと思います。ナショナルコーチの立場から男子400メートルリレーを見れば、もちろん目標は金メダル。それを狙える五輪が東京。すごい運命。リレーも自信を持った中でスタートラインに立たせたいです。

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