頼りの運転手がタクシーの外へと連れ出され、ボンネットとトランクが同時にガーンと開いた。運転席、助手席に黒い服を着た警備員が乗り込むと、次々と車内の引き出しを開けていく-。「なんか変なもん積んでんちゃうやろな…」。やっと戻った運転手は車内に消毒液をシュッシュッ。そうして走りだす流れは日常になった。フィギュアスケート会場の首都体育館入り口で毎朝見ている光景だ。

首都体育館入り口で運転手が連れ出されたタクシーの車内
首都体育館入り口で運転手が連れ出されたタクシーの車内

先月27日の北京入りから1週間が経過し、次第に慣れてきた。首都体育館は17年のグランプリ(GP)シリーズ中国杯以来、約4年3カ月ぶり。だが、すぐ隣のケンタッキーにも行けず、少し歩くと着く北京動物園のパンダにも会えない。それどころか敷地内の練習用リンクにも徒歩移動は許されず、小さな移動用バスの前に長蛇の列ができる。

北京五輪のメディア移動用に使われているタクシー
北京五輪のメディア移動用に使われているタクシー

新型コロナウイルス対策の「バブル」で、ホテルは白い壁に囲われた。メディアの移動手段は専用のバスとタクシーのみ。その認められた車でさえ、徹底したセキュリティーと感染対策の下で動いている。車窓から「おいしそうだ…」と見つめる店に、今回行くことはできない。それでも今日、北京五輪が開幕する。この目で見られる喜びを胸に、バブルの中から濃密な原稿を届けたい。【松本航】