東京都北区の国立スポーツ科学センター(JISS)の隣に、パラアスリートが優先利用できる「第2ナショナルトレーニングセンター拡充棟」(第2NTC)が建設されています。来年7月の開業を控え、先月、日本パラリンピアンズ協会(PAJ)の呼び掛けで、パラアスリートらと最寄り駅からの経路に危険な場所がないか調査してきました。

バリアフリーの立派な施設が完成しても、最寄り駅からのアクセスなど周辺環境が未整備では、利用できない選手が出てきます。調査は車いすユーザーと視覚障害のアスリートらでペアを組んで、地下鉄の本蓮沼駅と板橋本町駅、JR赤羽駅の3つのルートを徒歩やバスを使って行いました。

最も危ないと思ったのは、JISSから第2NTCに向かう横断歩道です。はす向かいなので2度渡るのですが、信号機に音声誘導装置がなく、青信号の点灯時間も短い。同行した視覚障がい者柔道の半谷静香選手から「周りの車のエンジン音で判断した」と聞いて、命に関わるほど危険なのだと痛感しました。

本蓮沼駅からのルートは、点字ブロックが途中までしかありませんでした。半谷選手は壁伝いに歩いていましたが、壁が途切れて立ち止まったり、電柱にぶつかる姿を見て、施設まで点字ブロックの誘導があるべきだと強く思いました。施設前の歩道沿いの2本の大木も気になりました。互い違いに植えてあるので、真っすぐ通れない。ここで自転車とすれ違うと思うと、車いすユーザーの私も身の危険を感じました。

今回の調査で分かった問題点は、優先順位をつけて行政に改善を申し入れています。信号機は警察庁、区道は区、国道は国交省など、働き掛ける機関がそれぞれ異なりますが、どこも前向きでありがたいです。最優先課題の音声誘導装置付き信号機の設置については、警察庁も予算編成を考えてくれていたようです。

当事者が実際に歩いたことで、具体的な改善点を提案できたことはとても大きいと思います。無駄なお金を使わず、効率よく改善できるはずです。施設の周辺の街もバリアフリー化されて共生社会のモデルタウンになれば、パラアスリートと地元の方の交流機会も増えますし、高齢者や子供も安心して暮らせます。第2NTCが、選手強化のためのみの施設にとどまらず、そんなすてきな街づくりのきっかけにもなればと思っています。

 

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。46歳。