10月にジャカルタ(インドネシア)でアジアパラ競技大会を観戦してきました。正味3日間でしたが、車いすテニス、卓球、バスケットボール、ボッチャなどを観客として楽しんできました。これまで海外の大会は選手団の一員として参加することが多く、他競技を観戦したり、観光する余裕はほとんどなかったので、新鮮な発見がいくつもありました。

私にとって特に有益だったのが、イスラム教徒と直接触れ合えたことです。インドネシアの国民の7~8割がイスラム教徒で、現地でガイドをお願いした方もそうでした。私は冬季競技の出身ということもあり、選手時代からイスラム教徒とは接点がありませんでした。ですから、多様な人が集まる20年東京大会を控えて、どこかで学べたらと思っていたところでした。

「イスラム教徒は豚肉を食べない」という知識はありましたが、「なぜ食べないのか」は知りませんでした。ガイドに聞くと、子供の頃からイスラム教の聖典で、豚は不浄な生き物だと教え込まれているので、豚肉を食べることがすごく不衛生に見えるということでした。宗教観の違いは頭では理解していましたが、背景を知ったことで、より身近に実感できました。

最終日には東南アジア最大のモスクも見学しました。ここで年に1度、イスラム教徒の女性が顔や髪を隠すヒジャブの、ファッションショーが開催されると聞いて驚きました。戒律が厳しく黒一色の国もありますが、インドネシアは大半の女性がカラフルなヒジャブを着用しています。色彩をスカートと合わせるなど重要なオシャレのツールなのだそうです。同じイスラム教でも国によって違う。まさに目からウロコでした。

今回、1人の観客として訪れたことで、競技以外の思わぬ文化を体感して、有益な知識を吸収することができました。20年東京大会にはイスラム教徒の方も大勢訪れます。食材やお祈りの部屋など慎重な対応が必要になります。その準備を考えると、イスラムの世界をさわりとはいえ、直接触れたことは貴重な体験になりました。

 

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。46歳。