5月の大型連休中、2泊5日の弾丸出張でセルビアで開催された国際パラリンピック委員会(IPC)の会議に出席してきました。アルペンスキー、ノルディックスキー、スノーボードのスノースポーツ3競技の2年に1度の総会で、世界25カ国から100人を超える代表者が集まりました。

来季以降のルール改正や世界選手権の開催地選定など議題は多岐にわたります。中でも特に印象に残ったのが、昨季から始まったアルペンスキーW杯のネット配信についての議論です。競技普及などを目的にIPCが資金を出して、全レースをユーチューブで中継するようになりました。

日本選手の欧州でのレースも、日本にいながら見ることができます。私もライブ配信を楽しみに見ていました。画面に選手名やタイムが表示され、実況もあるのでテレビ中継と変わりません。1本目と2本目のレースの合間には、現地の選手とラインでやりとりもして、スポーツの新しい楽しみ方だと喜んでいました。

ところが、会議ではコーチや選手から不満が続出しました。中継の影響でスタート間隔が長くなったり、各カテゴリー終了後のコース整備時間に選手インタビューを行うため、スタートを遅らせるなど、試合時間が長引いたことで「配信はハイライトだけでいい」などの意見が噴出したのです。

白熱した議論を聞きながら、私はパラスポーツは今まさに過渡期にあるのだと思いました。スポーツには「する」「見る」「支える」などいろんな視点があります。確かに選手の意向は尊重されるべきですが、一方で多くの人に見てもらえる工夫をしなければ、スポーツとして成熟できません。試合方式などで試行錯誤しながら大きくなったJリーグを思い出しました。

立場が違うので意見が対立したり、混乱もします。でもそれは、より楽しめるコンテンツへ成長していくための、避けて通れない過程だと思います。そのためには運営側と参加チームがコミュニケーションを密にして、議論を重ねながら、課題を解決していくしかありません。

今回の会議でもう1つ感じたことがあります。日本では競技のルールを学び、それに従うことがスポーツだと教えられます。でも、そのルールは、選手や見る人、支える人などさまざまな立場の人たちの状況や要望を加味し、また妥協もしながら、みんなでつくるものなのです。そんなスポーツの原点も見ることができた。連休返上で弾丸出張したかいがありました。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。47歳。