【ナント(フランス)=佐藤成】パリ五輪サッカー女子日本代表なでしこジャパンが1次リーグ第3戦でナイジェリアに3-1で勝利し、2大会連続の8強入りを決めた。スペインがブラジルに勝ち、日本は勝ち点6のC組2位で通過となった。大会直前の壮行試合で負傷し出遅れていたDF北川ひかる(27=INAC神戸)が五輪デビュー戦で「人生初」の直接FK弾を打ち込んだ。8月3日の準々決勝では、B組首位の米国と対戦する。
誰も予想できなかったシナリオだ。2-1の前半追加タイム5分。ゴール正面約25メートルの位置で直接FKを獲得すると、北川の左足がさく裂した。相手の壁を越えてゴール右上に突き刺さった。打った瞬間「もう来たなって思いました」と感触は抜群によかった。「まさかあんなにいいコースに蹴られるというのはちょっと正直びっくりしたんですけど、でもほんとに決められて良かったです」と笑顔で振り返った。
もともと蹴る予定はなかった。右利きのMF長谷川唯(27=マンチェスター・シティー)に譲るつもりだった。ただ長谷川から「蹴った方がいいんじゃない? 右上に蹴ってみれば」と言われ、その通りに実行した結果、ビューティフルゴールが生まれた。FKの練習は全くしていなかった。人生で直接FKを決めた記憶はない。それがこの大舞台で出た。「本当にこの時にしっかりと決められて良かった」と喜んだ。
ドラマのようなストーリーだ。アンダー世代では代表の常連だったが、なでしこには定着できなかった。20代も後半にさしかかった中で、今年2月に約1年半ぶりに代表復帰すると、夢だった五輪メンバー入りを果たした。石川県出身。元日の能登半島地震は、実家の金沢で被災した。
地元の金沢ゴーゴーカレースタジアムがオープンしたのは今年2月。そこでなでしこジャパンのパリ五輪壮行試合開催が決まった。「信じられない。ドラマみたい」。大会直前の7月13日、地元の人々から最も大きな声援を浴びてプレー。そんな幸せの中で試練が訪れた。試合終盤に右膝を痛めた。軟骨を損傷し、担架で運ばれた。フランス入り後も別メニュー調整が続いた。
焦る気持ちを抑え、地道にリハビリに取り組んだ。予定よりも早く回復し、1次リーグ突破がかかる大事な第3戦でいきなり先発に抜てきされた。どこまでできるか不安もあったが「本当にやるだけ」と腹をくくった。積極的にサイドを駆け上がって好パフォーマンスを披露すると、代表初得点のおまけまでついてきた。
くしくも五輪デビュー戦は日本時間8月1日。震災からちょうど7カ月だった。ピッチ内外で被災地への思いを忘れたことはない。「石川出身として、この五輪で戦っている姿をしっかり見てもらいたいですし、何かしらパワーだったり、勇気を届けられたらいいなとは常々思ってますし、とにかく見て喜んでもらいたいです」と発信を続ける。五輪でなかなか出番がなかったことについては「本当にお待たせしました」とちゃめっ気たっぷりに語り、「これからまた応援してもらえたらなと思います」と地元への思いを口にした。
小学校の頃に所属した菊川FC Jr.の卒団文集には2つの夢を記した。「なでしこJAPAN」と「オリンピック出場!」。それをともにかなえた。
ドラマの結末は思い描いている。「主人公になれるかわかんないですけど」と笑いながら、「今年1年でかなりストーリーがあったと思うので、それを続けて、また新たに新しい景色を見られたらと思います」。目指すは金メダルのみ。「本当にメダルを持って帰りたいので、チーム一丸となって頑張りたいと思います」とさまざまな人々の夢や期待を背負い、物語は続く。
◆北川(きたがわ)ひかる 1997年(平9)5月10日、石川県生まれ。5歳で競技を始める。星稜PELバディ、菊川FC Jr.をへて、11年にJFAアカデミー福島入り。17年なでしこジャパン初選出。好きな芸能人は向井理。趣味はバイオリン。家族は両親と兄。161センチ、53キロ。左利き。



