パリ・オリンピック(五輪)競泳日本代表に伸び盛りの17歳がいる。女子100メートルバタフライの平井瑞希(アリーナつきみ野SC)。6月に自己記録56秒33をマークし、池江璃花子(横浜ゴム)の日本記録56秒08を視界に捉えた。55秒台でのメダル獲得を目指す神奈川・日大藤沢高3年生は、萱原茂樹コーチ(50)と「いつも通り」の姿勢を貫き、五輪直前の代表全体合宿(フランス・アミアン)まで国内で調整。“街のスイミングスクール”を飛び出し、初の五輪で輝く。
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7月11日夜の羽田空港。日本選手団公式ウエア姿の平井は、笑みを絶やさなかった。そばには「みずき」と書かれたうちわを持った高校の同級生。直前合宿へ旅立つ間際も、そこに「いつも通り」があった。
代表に内定した3月以降も毎日高校へ通った。昼は友人と校内のテラスで弁当を食べながら「テストやばいね」と談笑。2年時から理系に進み「元々はスポーツクラスでしたが、数学や物理に興味を持って…。今は少し苦労しています」と苦笑する。
練習も午後6時から3時間を崩さなかった。拠点の神奈川・大和市のアリーナつきみ野スポーツクラブは、25メートル×5レーンと大きくない。パリでも泳ぐ50メートルの長水路を備えた施設は数多くあるが、この場にとどまった。21年東京五輪2冠の大橋悠依らは5月中旬から五輪まで欧州高地合宿などで強化。同銀メダルの本多灯ら約20人は、5月に欧州での大会を転戦した。平井は対照的に海外などには出なかった。「いつも通り」のスタイルで調整し「絶好調で頑張っているので、いい状態のままで本番を迎えたい」と手応えを示す。萱原コーチには「海外や高地に行かなければ速くならない、ということはない。大事なのは食事、休養、練習のバランス」との考えがあり「ここのいいところは(平井の)家が近い」と笑う。
学校やプールへの移動がわずかな分、休養や食事にこだわる。毎日必ず行うのが起床時の心拍数計測。疲労がたまると数値は上がり、同コーチは「大崩れしてから戻すのは大変」と、この数字を基に練習強度を調節する。武士を例えに「いつでも戦える準備。県大会も五輪も同じ。いつでも、どこでも本気で戦わないといけない」。波を作らないスタイルで今年1月に57秒台をマーク。3月のパリ五輪選考会では、一気に日本女子2人目の56秒台(56秒91)に突入した。日本記録保持者の池江に競り勝ち、初めての五輪切符を獲得。自己記録56秒33は、その後6月の県高校総体で出した。
平井 ここだったら一番速くなれると感じました
地元は愛知県。中学3年生の夏、初めて今の拠点を訪問した。インスタグラムをきっかけに練習に参加。選手の考えをくんだメニュー作成、そしてアットホームな雰囲気にひかれた。翌春の高校進学を機に、家族5人で神奈川に移住。休養と食事に不安はなく「すごく幸せです」と感謝する。家族も駆けつけるパリは、そんな「いつも通り」の延長線上で迎える夢舞台となる。
「メダル獲得へ、55秒6が目標。挑戦を最後まで諦めずに、頑張りたいです」
日本競泳界の新たな可能性を切り開く。【松本航】
◆平井瑞希(ひらい・みずき)2007年(平19)3月7日、愛知・刈谷市生まれ。4歳で水泳を始める。22年の日大藤沢高進学を機に神奈川へ拠点変更。同年8月の世界ジュニア選手権で100メートルバタフライ、400メートルメドレーリレー2冠。2年生から理系に進んだ。趣味は読書。家族は両親と妹2人。169センチ。
◆アリーナつきみ野スポーツクラブ 神奈川・大和市にあり、施設はプール、スタジオ、トレーニングマシンなど。1993年(平5)に建設され、97年に萱原コーチが競泳の選手コースを立ち上げた。16年リオデジャネイロ五輪代表の青木智美、21年東京五輪代表の本多灯らを育成。
◆パリ五輪女子100メートルバタフライ展望 6月の米国五輪代表選考会でウォルシュが55秒18の世界新をマーク。23年世界選手権銅メダルのハスクら米国勢を中心に、55秒台のメンバーが持ちタイム上位に並ぶ。日本勢は平井、池江がエントリーし、まずは決勝を狙う。



