スノーボード女子ビッグエア決勝でメダルの夢がついえた後、16歳の岩渕麗楽の瞳からこらえていた涙がこぼれ落ちた。コーチに肩を抱かれると両手で顔を覆って泣きだした。この光景が私にはまぶしかった。多感な時を競技一筋についやし、ついにたどり着いた夢の舞台で思い切り涙を流す。彼女が歩んできた濃密な時間を、怠惰に過ごした16歳の自分と重ねて、何ともうらやましくなったのだ。

 勝負をかけた2、3回目の大技は、ともに着地に失敗した。試合前の練習では完璧だったのに、本番でわずかに心が乱れ、無念の4位。「悔しい気持ちでいっぱい」。冷酷な五輪の現実に岩渕は顔をこわばらせた。でも、ベテランだって本当は足が震えているのだ。うまくいかなくて当たり前だ。彼女はここで人が生涯かけても学べないような、貴重な経験をしたのだ。

 16歳の頃を私はあまり思い出したくない。大志もなく、いつも周りの目を気にして、苦難から逃げていた。人間として弱かったのだ。一方、岩渕は雪にまみれて、恵まれない練習環境の中、週末には朝から日が暮れるまで滑り続けた。周りの誘惑には目もくれず、凡人には想像もできない辛い練習に耐えてきた。そう思うと、彼女の挑戦には誇りすら感じる。

 平昌大会には124選手のうち15人(男子6人、女子9人)の10代選手が日本から出場している。スノーボードの平野歩夢が19歳にして2つ目の銀メダルを獲得したが、多くが五輪の高い壁にはじき飛ばされ、失敗と挫折にまみれて大会を去る。しかし、成人式も迎えていない若者たちが、夢に向って逆境を乗り越えようとする姿は、勝敗を超えて私に勇気を与えてくれた。

 10年バンクーバー大会に15歳で初出場したスピードスケートの高木美帆は、2種目を滑って最高23位に終わった。続くソチ大会は代表にもなれなかった。たっぷりと苦汁を飲んできたから、今大会3つのメダルを手に出来たのだ。あの荒川静香さんも最初の長野大会は13位。岩渕にだって、この日の涙が味方になってくれる日がくるに違いないのだ。

 五輪が面白いのは、高木美帆や浅田真央さんのように、少年や少女が失敗と挫折を乗り越えて、大人になっていく人間の成長物語を映し出してくれることだ。岩渕にも20歳の五輪、24歳の五輪がくるのだ。「4年後、世界のレベルは今と違うはず。もっとレベルを上げないと」と岩渕は涙をふいた。その心意気だ。きっと夢は花開くはずだ。なにしろ君はまだ16歳なのだから。【首藤正徳】