やはり、オリンピックのメダル争いは最終グループを滑った選手中心に展開されてきましたね。

 特に、第1滑走の羽生結弦選手、素晴らしかったです。演技を見終えて鳥肌がとまりませんでした。以前のコラムで、本人の望むパフォーマンスはできないかもしれないと僕は言いましたが、予想をはるかに上回る素晴らしい技術と表現を見せてきました。

 あれほどの演技をしながら演技後には感情を解き放つこともなく、かみ締めるようにフィニッシュポーズをとり続けていたことが印象深くあります。そして、平昌の練習リンクに立ち、久々に氷上を滑る姿を公開したときのことを思い出しました。

 あのとき、軽いウオーミングアップのあと、突然トリプルアクセルを跳んでみせたのですが、あそこからもう試合は始まっていたのだなと改めて気付きました。彼の中で、4回転トーループを跳ぶことも、サルコーもアクセルも、どれも特別なことではない、圧倒的なスキルを持っていることを証明する、それこそがこの平昌の舞台だったのでしょう。

 111.68。この圧倒的なスコアは、技術への出来栄え点で+2または+3を集め、また演技構成点でも満点近い評価を受けられたことが要因です。非の打ちどころのないパフォーマンス、それこそが今日の羽生選手でした。

 「ソチでのフリーのミスこそが成長できた原因。やるべきことをやってきたので努力を結果として出したい」という本人の言葉からも見えるように、いつだって彼が目を向けてきたのは自分自身。明日17日のフリーでは、4年前の自分との戦いになってくると思いますが、昨年末からの苦労の数々に打ち勝った自信を胸に、納得の演技を見せてもらいたいですね。


 107.58という高いスコアで2位に付けたスペインのハビエル・フェルナンデス選手。彼も素晴らしかったのですが、羽生選手に届かなかった要因としては、ジャンプコンビネーションが前半に入っていること、またスピンの基礎点が高くないものを演技に採用し、またその出来栄えが+3を狙えなかったことがあると思います。

 ただ、今日のパフォーマンスは本当に素晴らしかった。演技開始から失敗の気配がみじんもありませんでした。滑りの重心もしっかりと中心に入り、緊張漂うジャンプ前までそれが乱れなかった。表現にも自信をもって演じていて、ジャンプ以外のパフォーマンスでもさすがだなと思わせるベテランの演技だったと思います。


 対照的に、3位の宇野昌磨選手はかなり緊張していた様子でしたね。直前のウオームアップでも表情が硬く、コーチがリラックスさせようと笑顔多く語りかけていたシーンが見えました。

 もしかしたら失敗するんじゃ、そんな不安も抱きながら見守っていたのですが、すべてのジャンプを着氷したのは強いです。

 しかしながら、どのジャンプも出来栄え点ではもっと評価を伸ばせたはず。その伸びしろこそが、羽生選手やハビエル選手との差だったのではと思いました。

 それでも、「個人戦は気持ちがどんどん上がっていった。団体戦では無だった」というように、より緊張の高まるシチュエーションでも、やるべきシーンでよりよい演技に仕上げてくる、宇野選手の気持ちの強さを垣間見た、そんな今日のショートです。


 4位のボーヤン・ジン(金博洋)選手は、このトップ4の中で一番難しいジャンプ構成を成功させた選手でした。そんな中、上位3選手から劣ったものを上げるとすれば、演技構成点にあるのでしょう。

 演技構成点とは、プログラムの密度やそれを実行するスケーティング能力、いかに巧みに氷上で演技ができるかなど、一つひとつの技術要素でなく演技全体への評価になるわけなのですが、羽生選手から宇野選手までは皆、10点中9点台の高評価を並べていました。

 一方、ボーヤン選手は、5項目ある評価内容の中で全てが8点台、演技面そのものへの評価が高くなかったのです。

 それでも、試合を追うごとに別人のように演技力を増して、評価を高めてきているのがこの選手です。世界の頂点を争う選手とも遜色ない評価にどんどんと近づいてきているので、フリーの演技次第では十分にメダルを獲得できることでしょう。


 メダル候補として注目を集めたネーサン・チェン選手(17位)、ミハイル・コリャダ選手(8位)が順位を落としてしまったショートプログラム。この展開を見る限り、フリーでも4回転の種類や数、それ以上に、一つひとつの要素で加点を重ねる、そんなことが大事なのではと感じました。

 20位に沈んでしまった田中刑事選手ですが、演技自体は悪くありませんでした。失敗がありながら失敗を忘れさせるような演技への入り込み具合、スケーターとしての成熟が見えます。10位までの点差が5点ほどしかありませんので、フリーでは大きなジャンプアップも可能です。

 メダルの行方も、そしてフリーに進出できた選手たちの順位も、まだまだ明日の演技次第では大きく入れ替わりそうな予感がします。明日のフリー、最初から最後まで要注目です。【川崎孝之】


 ◆川崎孝之(かわさき・たかゆき)1991年(平3)、愛知・半田市生まれ。安藤美姫をきっかけに、中学生からスケートファンに。19歳で編み出した陸上フィギュアスケートの活動が注目される。現在は氷上でのスケート練習に励み、大人からの選手デビューを目指している。