「かっこいい」「おしゃれ」「個性的」…。スノーボードを見ていると、オリンピック(五輪)では聞き慣れない言葉が飛びだす。元五輪代表の中井孝治さんの解説が特別なわけではない。選手たちの会話にも「かっこよく」「自分のスタイルで」「誰もできないことを」という言葉が自然に出てくる。

 男子スロープスタイルで優勝したレドモンド・ジェラード(米国)は17歳。勝負を決めた3本目は「かっこよく」て「おしゃれ」だった。ありえない大回りをして斜めからジャンプ台に突入。高難度の技を決めたことはもちろんだが、採点でも「独創性」は得点の大きな要素になる。

 7人兄妹の6番目、165センチ、53キロで見た感じはまだまだ「子ども」だ。だからこそ柔軟な発想と大胆な挑戦ができる。決勝も2本目まではミス連発で40点台だったが、3本目に87点。ブービー(12人中11位)からトップに躍り出た。

 若い選手たちは、伸び伸びと競技をしている。五輪独特の悲壮感はない。うまくいくと喜ぶのは当たり前だが、ミスしても笑っている。3本の平均点ではなく最もいい点で順位を決めるのも「遊び」の要素が強い。「失敗しても、次に成功すればいいじゃん」。彼らにとって競技は「遊び」の延長だ。 「より速く(Citius)より高く(Altius)より強く(Fortius)」は五輪のモットーだが、この種目では「よりかっこよく」「よりおしゃれに」が求められる。「かっけー!」「やばい!」。若者たちが評価するのは、そういう部分。それが国際オリンピック委員会(IOC)が強調する「新しい五輪の価値」でもある。

 20年東京オリンピック(五輪)でも「かっこいい」「おしゃれ」という言葉が聞こえるはずだ。スノーボードの「親戚」でもあるスケートボードとサーフィン、さらに自転車BMXのフリースタイルでも「かっこよさ」や「独創性」が採点要素になる。そのうち「かっこよくなければ、五輪じゃない」なんて言われるかもしれない。

 ゴール地点を囲むようにできた立ち見の観客席ではこの日、IOCのバッハ会長が熱狂する観客と「子どもたち」の「遊び」を見つめていた。「これだよこれこれ、これが新しいオリンピックだ」。そう言いたそうな笑顔があった。【荻島弘一】