フィギュアスケート男子で金メダル候補の宇野昌磨(20=トヨタ自動車)が「定位置」から初めての五輪個人戦へ出陣する。前日調整では、トップに立った9日の団体SPから変わらぬ好調ぶりを披露した。羽生がケガの間に背負ってきた重圧から解き放たれ、いつもの立ち位置で表彰台の頂点を狙いに行く。

 スチルカメラ12台、小型を含むテレビカメラ14台。テレビの中継など異様な空気が漂った公式練習を、宇野は冷静に見つめていた。レンズが向く先はほとんどが羽生。どこか懐かしい感覚で40分間をフルに使い「(前日で)特に何か特別な思いがあるわけじゃないですけれど、率直な気持ちは『久々に陰に隠れて試合を迎えるな』という感じがします」と周囲を笑わせた。

 その滑りは落ち着きを放ち、ピークを見定めているようだった。SP「冬」の曲をかけての練習では、高難度の4回転フリップを成功。4回転-3回転の連続トーループも決め「特に何か不満を持っているところはないです」と自己分析した。視野を広げれば羽生をはじめ、チェン、フェルナンデスらが滑り、跳び、回っている。「久々に楽しいというか(気持ちが)高まったという感じ。(氷に)降りてすぐ、これだけやる気が出ているのは久しぶりでした」。図らずとも、気持ちにスイッチが入った。

 数多い世界の実力者の中でも、羽生への意識は強い。シニア転向後は過去6度同じ舞台で戦い、勝ったことがない。全てにおいて憧れるからこそ、羽生が故障する前の昨年8月には「僕は数多く戦いたい。それは追いかける立場だからこそで、一緒に出られる試合が本当に楽しい」と少年のように目を輝かせていた。

 昨春の世界選手権以来、今季初となる顔合わせを前に「今はまだ分からないですけれど、多分楽しめるのかなって思います」と個人SPの舞台を想像した。「自分に負けない演技をして、それを見せたいと思います」。満タンのパワーを発散するときが来た。【松本航】