フィギュアスケート男子シングルで銀メダルを獲得した宇野昌磨(トヨタ自動車)の指導した山田満知子コーチ(74)は17日、愛知・豊田市の中京大でテレビ観戦後、取材に応じた。
-今の気持ちは
山田 すごくうれしいですよ、すごくうれしい。もうやっぱりあれだけのプレッシャー? 最終グループで滑ったら、多分ああはいかなかったと思うけど「何としてでも」という勢いが成功した。私なんか見ているだけでドキドキする、昌磨もきっとそうだったと思うけど、その中でよくあれだけのことができた。もう大満足ですね。
-銀メダルという結果は?
山田 私はいつもあまりメダルとか順位は気にしてない。でも、結果的には銀はすごいじゃないですか。世の中の人は(羽生と)1、2フィニッシュを取って欲しいとか思ってたでしょうし…。それは良かったんじゃないでしょうか、あっはっは。
-銀はすごい
山田 そうよね。でも、それより今見てた男子、どこまでオリンピックに、みんなレベルを上げてきてるのかと。それがすごかった、おもしろかったです。
-宇野の演技は?
山田 昌磨としては、滑りもいつもはもっと華やいで、ワーッという雰囲気が出せるんですけど、でも、オリンピックのあの雰囲気の中で、あれだけできた。(1回目の4回転)ループもちょっと失敗しましたけど、何とかパンクはしないで回った。良かった、ホントに良かったと思います。
-幼い頃から表現力に定評がある
山田 表現もいつもならもっとできたと思う。だけど、4回転飛ぶ人たちってのは、それを度外視して、ジャンプを成功させることだけに集中する。ユヅ君のようにちょっとジャンプを控えて、完全なプログラムにしたいというのもある。だけど、下から追い上げる人たちはもうやるしかない。そういう形にはなっていかない。ウチの場合は両方、ジャンプも少し難しい技をしていかなくちゃいけない。かといって、表現力、滑りもちゃんとやっていかないと上位には…。それがある程度評価されたんじゃないでしょうか。
-5歳から15年見てきた。振り返って?
山田 世界選手権の金銀と違ってオリンピックなんでね。ちょうどいい時にオリンピックを迎えることができたのは、あの子の力というか、ラッキーというか。なかなかオリンピックで、は難しい。しかも、このレベルの高い中で金メダル(争い)まで到達した。ちっちゃい時のことを思ったら「えー?」と思うけど、最近の努力しているところを見たら、努力したかいがあったんじゃないか、と思います。
-もう連絡は?
山田 昌磨も(樋口)美穂子(コーチ)も電話をかけてもないし、かかってもきていない。忙しいでしょうし。かかってきたのは昌磨のママ。泣きながら「ありがとう、先生、よかった」と言ってました。
-今、声をかけるとしたら?
山田 もう、うん。(両手を広げるポーズで)うわーっと抱きしめて、喜びたいだけ。「今後もまだあるよ」とかじゃなく、この大舞台であれだけのことをやったことを労いたいという思いしかないですね。
-背の小さい宇野選手がここまでやれたのは?
山田 バランス競技なので、あんまり背が高かったりするのは難しいとか、小柄の方が、体操選手でもそうですし…というのもあります。けど“見てくれ”としてはね。(田中)刑事君なんかと一緒に滑ってると、刑事君なんかはスラーっとしてて、手の長い。一振りがうわ~っと大きい。ウチの昌磨は(手をちょっと動かして)これぐらいしか…あっはっは…ない。それは美穂子とも言ってる。「こればっかりはしょうがないもんね」と。でも、それを違う武器で、表現力とか、いろいろ自分なりに、人よりすばらしくやろうと努力していると思います。
-宇野選手はいろんな人から愛される選手。コーチから見た魅力は?
山田 あたしは1位とか2位よりも、フィギュアスケートを通じて、みんなから愛されたり、応援される、したくなる人間になってほしいといつも思ってきた。ライバルがどうとか、そういう方向じゃない。うちにいた子たち、昌磨がそうだし、今バラエティーのタレントやってる村上佳菜子にしても、かわいがられる選手。それにはやはりハート、心がきれいじゃないといけない。昌磨も小さい時からそういう人間に育ってきた。みんながあったかく応援してくれる選手というか。今も佐藤信夫先生から真っ先に電話があって「マチちゃん、良かったね~」と。私自身も良かった。昌磨もみんなの祝福に喜んでいると思います。
-4年後について、希望や、描いていることは?
山田 全然ない。けど、前からこれがピークじゃないと。今が20歳、4年後が24歳かな。それを見据えて彼はやっていると思う。
-最後に力を出し切れた強さは?
山田 とりあえずネーサン・チェンがSPでドーンと行ってしまって。女子の浅田真央ちゃんじゃないけど。真央より勢いすごかった。昌磨はショートもうまくいったというか。(両手で輪を作って)「この中でやっていかなきゃいけない」というのがあったと思う。(フリーは)ユヅ君もパーフェクトじゃなかった。逆のプレッシャーもあったろうし、向かっていかなきゃというプレッシャーもあったと思う。彼は彼なりに、あまり人を気にせずやっていくタイプ。自分で「冷静に、冷静に」とやっていたと思う。でも、やっぱり(プレッシャーは)すごかったと思う。それは褒めてあげなきゃいけない。
-伊藤みどりさん、浅田真央さんも見て、男子は五輪で初めて。宇野選手だから、という思いは?
山田 いや~みどりの時は今のユヅ君と同じだったと思う。世界中が金メダル確実と…。そのプレッシャーが、本人も私もすごく大変だった。昌磨はそういうのと違うものがあったと思う。みどりのときは(現地に)連れて行っていた。今回は美穂子に託して、こっちでモニターで見ていた。それでも、心配はありましたが、今の男子のレベルが急激に上がってきたので、どこまでついていってくれるか? でも、現地に行ってないので、楽ちんでした。
-彼に何か声をかけるなら?
山田 ループの失敗、サルコーも練習してので、今後、どういう風に何種類? 何回組み込んでいくのか…ということとか、全日本のころは「原点に戻って、もう1度考え直さなきゃ」とたたいてましたけど、今回はとりあえず、…いっぱいありますけど、あの大舞台でね、御の字じゃないと思う。抱きしめることはしますけど「すごかったよ」とは言えないかも知れませんね。