東京オリンピック(五輪)陸上女子5000メートル代表の田中希実(21=豊田自動織機TC)が、阪神・淡路大震災から丸26年の日に、今年初レースの1万メートルで優勝した。

兵庫県小野市出身。自身2度目の1万メートルで自己ベストの31分59秒89をマーク。日本選手権(5月3日、静岡・エコパスタジアム)の参加標準記録32分25秒00を突破した。4分5秒27の日本記録を持つ1500メートルは五輪参加標準記録まであと1秒07。1万メートルでも挑戦権を手にして「五輪2種目出場」が現実味を帯びてきた。

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最大約100メートルも差があった安藤の背中が近づいてくる。みぞれまじりの雨が降ったレース中盤まで、田中のペースは400メートルトラック1周77秒前後。それが残り2周目には約73秒へ。ギアを上げ、残り約300メートル地点で抜き去り、そのままゴールに入った。

田中は「1万はやっぱり長いな、と思いました」と笑った。19年日本選手権以来、自身2度目で31分59秒89。自己記録を前回の32分25秒81から更新、日本選手権への標準記録を25秒以上も余裕を持ってクリアした。昨年、1500メートルと3000メートルの2種目で日本記録を更新。5000メートルで持ち味のスピードを生かすために「もっとスタミナをつけないと」と意識して、今回の出場を決めたという。

東京五輪5000メートル代表権に加え、1万メートルでも代表の挑戦権を得た意味は大きい。五輪標準にまだ34秒89の差があるが、豊田自動織機TCコーチで父の健智さん(50)は「1周75秒前後のペースなら…」と話す。

実は田中が最も望む五輪代表権は1500メートル。同じ兵庫県小野市出身で08年北京五輪5000メートル代表の小林祐梨子さんも切望した“日本女子未踏のレース”に出たい。しかし、仮に1500メートルと5000メートルの代表権を得ても、同予選と同決勝は同じ8月2日の午前と午後のため、ダブル出場は非現実的。そこに同7日の1万メートルの可能性が加わった。

健智さんが言う。「娘と冗談のように“ハッサンみたいのはすごいね”と話したことがあるんです」-。19年世界選手権で1500メートルと1万メートルで金メダルを手にしたのが、シファン・ハッサン(オランダ)。夢のシナリオの中心はすでに出場権がある5000メートルだが、さらに1500メートル、そして1万メートルの切符も手にできれば…。「5000メートル+1万メートル」か「1500メートル+1万メートル」。五輪2種目出場の野望が現実味を帯びてきた。【加藤裕一】

◆19年世界選手権のシファン・ハッサン2冠 9月29日の女子1万メートルは30分17秒62で優勝。10月5日の同1500メートルは3分51秒95の大会新記録で制し、2冠を達成した。偉業後、ハッサンは「体力的に難しいのは1500メートル、精神的には1万メートルが難しい。簡単そうに見えるかもしれないけど、とてもきつかった」と話した。昨年9月には非五輪種目の1時間走で1万8930メートルの世界新記録を樹立している。

◆女子1万メートルの五輪出場 東京五輪の出場枠は1種目につき最大3人。出場資格を得るには五輪参加標準記録(31分25秒00)を突破するか、世界ランキングで上位に入ることが条件だ。昨年12月の日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)で、新谷仁美(32=積水化学)が30分20秒44の日本新記録で優勝して内定。残りの代表2枠は今年へ持ち越しとなった。5月3日に1万メートルだけの日本選手権が行われ、選考の重要な場となる。有力選手は、松田瑞生、佐藤早也伽、鍋島莉奈など。

◆田中希実(たなか・のぞみ)1999年(平11)9月4日、兵庫・小野市生まれ。小野南中3年時に全国中学校大会1500メートルで優勝。西脇工高を経て、同大1年だった18年のU20(20歳未満)世界選手権では3000メートル優勝。19年世界選手権5000メートル14位。昨年8月のセイコー・ゴールデングランプリでは1500メートルで4分5秒27と、小林祐梨子の記録を14年ぶりに更新。153センチ、41キロ。

【東京五輪の陸上女子1500、5000、1万メートルの日程】

◆7月30日 5000メートル予選

◆8月2日 1500メートル予選(午前)、5000メートル決勝(午後)

◆4日 1500メートル準決勝

◆6日 1500メートル決勝

◆7日 1万メートル決勝