最後までベールに包まれたまま運命の決戦を迎える。陸上の東京五輪代表の最終選考を兼ねた日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)が24日から開幕する。男子100メートルで9秒97の前日本記録を持つサニブラウン・ハキーム(22=タンブルウィードTC)は23日、千葉県内で最終調整。ライバルたちが大阪で前日練習をする中、独自路線を貫いた。約1年7カ月ぶり実戦だった5月31日のレースは追い風参考3・6メートルの条件下、10秒25と不発だった。この男のコンディションは代表争いを大きく左右するが、まさに未知数だ。

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東京の切符を懸けたサバイバルは史上最高のハイレベルで、「0秒01」の差も命取りになりかねない。9秒台のベストを持っているのは4人、代表枠は3。その戦局を大きく左右するのがサニブラウンだ。日本勢では唯一、公認記録での9秒台を過去に2度マークしており、日本選手権は17年、19年と他を寄せ付けない強さで圧勝している。

強者の風格か-。はたまた、今の調子をライバルに知られたくないのか-。前日は会場で練習するのが一般的だが、サニブラウンは千葉県内の施設で約1時間、軽めのダッシュやスタート練習を行った。

まだ大一番へ向けたスイッチが入っている様子ではない。「いや。全然湧いてないですね。下手したら、スタートラインに立たないと、何も感じないかもしれないですね」。決戦の前日である実感を問われると、こう笑った。

コンディションを疑問視する声もある。コロナ禍が発生した昨年は休養期間と位置づけた。5月31日のレースは2年前の世界選手権以来、約1年7カ月ぶりの実戦だった。3・6メートルの追い風と好タイムが期待される条件だったが、10秒25止まりだった。6月上旬に拠点の米フロリダから帰国し、2週間の隔離を経て、日本選手権を迎える。「うーん、どうですかね? なんせ全然レース走ってないんで。まあ走ってみなきゃ分からないですね」。まさに未知数だ。

16年リオデジャネイロ五輪は日本選手権直前の故障で欠場を余儀なくされた。五輪選考を戦うのは初めてとなる。「楽しんでいけたらなという感じです。日本選手権で、オリンピックがかかっている大事な所ですけど、しっかりそういう所ではスポーツというものを楽しんでいければ」。本気で世界一を目指し、高校卒業後は渡米し、プロにもなった。結果を出すのは当然の使命として持つ。「しっかりいい走りをして、五輪に向けて、いい準備ができれば」。ポテンシャルは疑いようがない。その調子はいかに。【上田悠太】

◆男子100メートル東京五輪代表選考 代表枠は最大3。19年5月~20年4月5日、20年12月1日から21年6月29日の期間に、参加標準記録(10秒05)を突破するか、世界ランキングで出場資格を満たすことが条件。その上で、日本選手権3位以内に入れば代表。それで3枠が埋まらない場合は、日本選手権の結果、世界ランキングの上位などの要素から選ぶ。