6日の布勢スプリントで9秒95の日本新記録をマークした陸上男子100メートルの山県亮太(29=セイコー)が26日、大阪市内のホテルで、日本新記録達成報告会を行った。

前日の日本選手権決勝では10秒27の3位に入り、東京五輪代表に内定。ダブル祝いになったが、その運命の日本選手権決勝では80メートル付近では、バランスを崩し、スパイクの靴ひもがほどけていた。一夜明けて、その瞬間を振り返った。

「足がもつれる感じがあった。最後の決勝レース1本に全力を出し切ろうと力を出し切ろうとしたのが、体が追いつかなかったのがあったのかな。体の限界を感じた一瞬だった。靴が緩んだとかは全然感じていない。足を痛めたこともない。ただ、もつれたという感じです」

レース中は「靴ひもがほどけていた」との自覚はなかったという。気が付いたのはレース後にカメラマンの前で写真撮影をしようとしている時だった。「何で靴ひもほどけているんだろう」と思った。本人にも説明できない部分があるようだった。

理想のレース運びには遠かった。「過去3大会、オリンピックの選考会の日本選手権を戦ってきたのですけど、今年が一番しんどかった」。ただ、3大会連続の五輪出場を決めた。代表落ちとなった5位桐生とのタイム差は、わずか0秒01。距離にして約1センチだ。「胸の差1つでつかんだ代表の切符」。権利を得られた今の立場に感謝した。

セイコーの服部真二CEOからは「夢は大きく日本人89年ぶりのファイナリスト。十分に可能性があると思います」と期待を寄せられた。

5年前のリオデジャネイロ五輪準決勝では10秒05の自己新を出した。しかし、決勝進出ラインの10秒01。日本人では32年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来となる決勝に届かなかった。

かつて自己ベストはスプリンターにとって「看板のようなもの」と語ったことがある。今の9秒95のベストは「自信になる」。あらためて東京五輪への思いを問われると、「自分の持っている100%の力を出し切れば、夢だった決勝進出も現実的になってくる。ポジティブにやっていきたい。同時に一本勝負にかけるメンタル的な弱さを日本選手権で感じた。しっかりトレーニングをして、少々失敗しても大丈夫なように本番を迎えたい」と語った。日本選手権の負けは五輪の糧とする。そして、もちろん100%の力が出せればベストだが、「少々失敗」があっても大丈夫なコンディションを整えていくことも重要視する。

またセイコーからは日本記録達成の記念として、同社の高級腕時計をプレゼントされた。それを左腕に巻いた山県は「すごく輝いて、思い出に残る時計をいただけてうれしい」と声を弾ませた。