フェアリー(妖精)は下を向かない。昨年の世界選手権で44年ぶりの銀メダルを獲得し、一躍東京五輪での金メダル候補となった新体操団体日本代表「フェアリージャパンPOLA」。新型コロナウイルスの影響で練習拠点が使用停止となり、強さの源だった長期の共同生活ができず、メンバーは各自が自宅で過ごす。その苦境をどうとらえるか。指導する山崎浩子強化本部長(60)には、一貫してぶれない信条がある。書面インタビューを行い、その「言葉」を聞いた。

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「当たり前の日常が当たり前ではないことを学んでほしい。練習ができること自体が幸せであることを学んでくれれば、次に練習ができるときに、取り組み方もまた変わってくるのではないでしょうか。いまできることを工夫してやってくれれば。ヒントはたくさん与えました」

山崎本部長へ質問したのは、いまできる「強化」とは何か。コロナ禍で先月8日に拠点のナショナルトレーニングセンター(NTC)が使用停止となった。1年のうち350日以上の共同生活で緻密な連係を作り上げてきた基盤を失った。団体競技に絞っても、衣食住をここまで共にするのはまれだ。だからこそ、ダメージは一層と考えての問いだった。重ねて、メリットとデメリットを聞いた。

「メリットは、心と体をリセットできる時間が十分に与えられたこと。デメリットは考えない。考えても仕方がないので」

この強化トップの姿勢。不安には縛られない。いま指針にする言葉を聞くと、これまでも口にしてきた信条が返ってきた。

「人生の10%は自分で作り、90%はどう捉えるかだという言葉が好きです。人生は9割が思い通りにならないけど、捉え方によって人生は変わっていくと思っています」

これを常日頃、メンバーにも伝えている。それが、いまこの苦境で際立つ。延期決定直後から練習内容を大幅に変更し、心と体のリセットをテーマに、特に動きの精度を高める練習にシフトした。その延長で、各自は家でバレエや軸トレーニングなどを行っている。

新体操は難度点(技の難しさ、連係など)と実施点(芸術性、同時性など)、各10点満点の合計点で競われるが、18年に大きなルール改正があった。難度点の上限が廃止され、どれだけ難しい技を詰め込めるかの勝負に。休む間もなく難しい技が求められ、体力的にも技術的にも美しいだけの競技ではなくなった。そこで生きるのが日本の緻密さで、共有時間の長さが下支えではあった。ただ、それがかなわなくても「捉え方」こそが重要になる。

今後はメンバー交代などは行わない方針で、できる範囲での習熟を目指す。NTCからの解散の時に、選手にはこう伝えたという。

「コロナウイルスにうつらない、うつさないということを一番に考えてください。いつでもアスリートとして、日本代表候補としてなすべきことは何なのかを考え、自己コントロールしてください。またいつここに戻れるかわかりませんが、元気な姿で会いましょう」

思い通りにならなくても、妖精は羽ばたく準備を進める。【阿部健吾】

◆山崎浩子(やまざき・ひろこ)1960年(昭35)1月3日、鹿児島県生まれ。鹿児島純心女子高で新体操を始め、東京女体短大から東京女体大に進学。容姿端麗、美しい演技で79~83年の全日本選手権を5連覇し、脚光を浴びる。個人では81年世界選手権で12位、84年ロサンゼルス五輪で8位入賞。引退後はタレント、スポーツライターとして多岐に活躍。04年から強化本部長を務める。