東京オリンピック(五輪)1次リーグの組み合わせが決まった。なでしこジャパンにとっては16強で終えた19年ワールドカップ(W杯)のリベンジを目指す五輪。さらなる強化を目指す中、チームは20年7月に女子サッカーの本場、米国のフロリダ州立大学女子サッカーチームでアシスタントコーチを務める今泉守正氏(60)を新たに代表コーチに加えた。米国で得た知見や分析力などを期待されて代表現場へ戻ってきた同氏に大舞台へ向けた思いを聞いた。

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頼もしい“新戦力”が2大会ぶりの五輪へ向かうなでしこをピッチ外で支えている。昨夏の代表コーチ就任から9カ月。今泉氏は五輪まであと約3カ月となったチームの課題について「ゴールへの期待値をどう上げていくか」と語った。データ分析などで見えてきたのは「具体的なシュートのタイミングやフィニッシュのためのスペーシングなど、そうした細部の質」とし「指導の中で選手が納得する形で獲得していってほしい」と力を込めた。

もともと女子サッカーの指導歴は長い。02年のユニバーシアード日本女子代表監督就任を皮切りに、04年から06年にかけてはU-17、U-20女子代表監督やA代表コーチも経験。08年にはナショナルトレセンの女子担当チーフとして、当時まだ指導者になりたてだった高倉監督や大部コーチらと共に働いた。高倉監督からは「データなどを使って客観的に試合や選手を見る目がたけている。違った目線からいろんなアイデアを出してくれるんじゃないかなと感じています」と期待を寄せられている。

女子チームのアシスタントコーチを務めるフロリダ州立大では「進んでいるなと思うことは多い」と徹底したデータ分析や睡眠サイエンスを用いたコンディション管理など最先端のシステムを肌で感じてきた。代表コーチとの兼任が決まると、20年3月のシービリーブス杯の日本の全3試合のデータを同大の分析ソフトを使って数値化。相手へのプレスの有効性やビルドアップの達成度をはじめ、攻撃ではペナルティーエリア内のどこでシュートを打てば得点の可能性が高いか、守備では相手のどの攻撃パターンが失点につながる可能性が高いのかなど細かな部分まで図表に示した。

重要だと語るのは長所の再現性。日本人の特性はテクニックの高さや俊敏性、規律性の高さだ。

今泉氏 加えて常に考えながらいろんなことを察することのできる認知力も強みで、数人が関わってプレーができる。そうした部分の攻守における回数をいかに多くしていくかをスタッフと映像を見て議論しています。

大学では攻撃を担当しており、映像もピッチの四方はもちろん、空からドローンでも撮影する。

今泉氏 僕の評価視点は選手がどこでボールを受けたか。受けた際の体の向きやパスの種類も見ます。各地点からの映像を見せ、根拠を持って説明する。これをなでしこにも持ち込んでやっていこうと。コーチの主観的な部分とデータによる客観的な部分の両面を用いれば、論理的にしっかりと分析ができる。チーム戦術をより具体化し、選手個々の特徴を引き出すことで良い結果が出せればと思っています。

コンディション面でもフィジカルコーチと連携を取りながら、故障にも最大限気を使っていく。

今泉氏 けがをしないこと、そしていかに試合でトップコンディションにもっていくか。特に五輪の期間は短いので。データサイエンスも用いながら準備をしていきたい。

日本は21日に行われた五輪の1次リーグ抽せんで英国、カナダ、チリと同組となった。世界ランキングでは英国、カナダに次ぐ上から3番目。19年W杯ではイングランドとして出場していた英国に1次リーグで敗れており、五輪でもまずは決勝トーナメント進出が第1目標となりそうだ。

今泉氏 金メダルに届く国だと思っている。選手が望む場所に連れていくことが自分の役割。なでしこのプレーモデルを具現化させるためにどのようなことができるのか。そこに対してのサポートをしていきたい。

◆今泉守正(いまいずみ・もりなお)1960年(昭35)8月19日、愛知県出身。千葉の八千代高時代は全国高校総体準優勝、全国選手権3位。筑波大卒業後の83年から千葉県内の高校男子サッカー部監督などを務め、JFAのS級コーチライセンスを取得した04年以降はU-17、U-20日本女子代表監督などを歴任。11年にJOC指導者海外研修員としてフロリダ州立大へ。13年にいったん帰国し、JFAアカデミー女子統括ダイレクターなどを務めていたが、15年に同大から誘いを受け、JFAを退職して再び渡米。女子チームのアシスタントコーチに就任した。20年7月からA代表コーチも兼任。

【松尾幸之介、杉山理紗】