「ゴン攻め」「ビッタビタ」が、再び注目された。4日に発表された新語・流行語大賞ノミネート30語に入ったからだ。東京オリンピック(五輪)スケートボードのテレビ解説で、プロスケーターの瀬尻稜が放った言葉だ。
「カエル愛」「エペジーーン」…。東京五輪・パラリンピック関連は実に9個も選ばれた。五輪の年に関連の言葉が入るのは恒例だが、今回は全体の3分の1と圧倒的に多かった。
30語の中にはあまり一般的ではなく「新語」や「流行語」としては首をかしげたくなる言葉もあったように思う。新型コロナ関連の言葉は昨年多く出たし、経済が止まり、社会が停滞した。言葉も「不作」の年だったのかもしれない。
そんな中で「ゴン攻め」は広く知られた言葉といえる。瀬尻は「いつもの話し方で出た言葉がノミネートされて驚いている」とコメントした。「いつもの話し方」が、スケボーの世界を出れば「新語」になる。
「スケボー語」は多い。五輪採用が決まった直後、大会を見に行った。会場案内には「駅からプッシュ20分」とあった。「プッシュ?」。一方の足で地面を蹴りながらボードで進むことだが、それだけ書かれていても分からなかった。
子どもたちの会話にもついていけなかった。トリック名はもちろんだが「ぐにゃった」とか「まくった」とか意味不明。後から意味を聞き、会話についていくのがやっとだった。
挨拶も同じ。取材対象と会った時に握手をすることはよくあるが、スケボーのあいさつは独特。ハイタッチとグータッチを組み合わせた複雑なものを、子どもから大人までやる。それができないと「仲間」として認められてもらえない。
考え方から言葉、動作まで、すべてがスケボーの文化なのだ。スケボーだけではなく、サーフィンやBMXフリースタイルも同じ。これらのスポーツは、特に独自の「カルチャー」を大切にしてきた。
もちろん、すべてのスポーツに独自の文化があり、言葉がある。柔道では「練習」とはいわず「稽古」。年長者は「先輩」で、指導者は「先生」だ。クラブ育ちの多い競泳やサッカーでは年長者にも「クン」付けが多い。
ただ、競技がメジャーであれば一般的にも広く受け入れられる。スケボーは隔離された世界から五輪によって突然社会に放り出された。だから、社会にとってはその文化が特殊だし、言葉が「新語」になる。
スケボーやサーフィンは五輪採用に際して「我々のカルチャーは守る」としてきた。その1つが言葉だとしたら「ゴン攻め」は、そのカルチャーが一般に受け入れられた証拠なのだ。
東京大会は「多様性」がテーマだった。もし受け取る社会に多様性がなく、寛容さもなかったら「意味が分からない」「解説になっていない」と問題になったかもしれない。批判もされず、ポジティブに受け入れられたのは、社会の変容によるところも大きい。
以前、冬季五輪のスノーボード選手が服装で問題になった。「普段通り」の着こなしをしたのが、批判されたのだ。もちろん、今も選手団の制服で「腰パン」することがいいとは思わないが、もし今大会でスケボー選手が同じことをしていたら、どうだったか。「腰パン」自体がすたれたとはいえ、スノボと同じタイミングでスケボーが五輪入りしていれば、同じことが起こったかもしれない。
スケボーにとってはいいタイミングの五輪採用だった。もちろん、日本選手の活躍は大きいが、受け入れる大会や社会も変わってきている。新しいスポーツの「ゴン攻め」は、まだまだ続きそうだ。【荻島弘一】
(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

