【特別編集委員コラム】古い新聞を巡る「旅」…仕事をサボって考えた新企画/連載17
新聞は、新しいニュースを読者に伝えるもので、毎日新しい紙面を作っています。しかし、何年、何十年も経ってから古い新聞を読み返してみると、新たな発見があるものです。新聞には明日の読者だけでなく、後世に事実や見解を伝えていく役目もあります。日刊スポーツ・プレミアムでは、過去の紙面をひもとく新連載をスタートさせます。ぜひ、日刊スポーツを巡る「旅」をご一緒しましょう。
その他野球
「リ・ニュース」
仕事をサボるには図書館が最適です。通勤途中の永田町駅にある国会図書館は、国内の書籍はほぼそろっていますから、何時間いても飽きません。館内の食堂も安いので、会社より国会図書館にいる時間が長かった時期もあります。
社内にいるときは、社内のデータベースにアクセスしていると時間を忘れます。日刊スポーツが創刊した1946年(昭21)3月6日からの紙面すべてを検索できるのです。
私は日ごろから業務の合間を見つけては、興味ある試合や事件を報じる過去記事を読んできました。
古い記事を読む醍醐味は、掲載当時を「点」として見るのではなく、現在までを「線」で捉えられることです。「この出来事が、のちの事件につながっていく」「この後、流れが変わっていく」などと、あらためて考え直す機会になります。
「新聞」は、誰も知らないニュースを取材して報じるところに本来の価値があります。しかし、古い新聞を丹念に読み返すことで、新しい意味を感じられる。「リ・ニュース」とでもいうのでしょうか。これも新聞の価値だと私は考えています。
それを教えてくれたのは、作家の佐山和夫さんの書籍でした。佐山さんは2021年(令3)に野球殿堂入りも果たしており、野球に関する著書がたくさんあります。
ニグロリーグのスター、サチェル・ペイジを追った「史上最高の投手はだれか」(潮出版社)。
近代野球の発祥に迫る「野球とクジラ カートライト・万次郎・ベースボール」(河出書房)。
日本でストライクを先に書いていた理由に迫る「野球とアンパン 日本野球の謎カウントコール」(講談社)。
大正期にアメリカで活躍した選手に迫った「『ジャップ・ミカド』の謎 米プロ野球日本人第一号を追う」(文芸春秋)。
元祖・侍ジャパンともいえるチームを追った「1935年のサムライ野球団」(角川書店)
佐山さんは関係者をインタビューするだけでなく、テーマとなる時代、地域の新聞記事や古書を丹念にひもといていきます。
「1935年のサムライ野球団」は、アメリカ・カンザス州のウィチタという町が舞台です。冒頭にこんな記述があります。
ウィチタの図書館へ行き、一九三五年の地元紙を読むことだった。その年の夏にここで行われた「裏ワールド・シリーズ」に関する記事を読むのに適しているのは、この町の図書館をおいて他にはない。(中略)ウィチタには二種のローカル新聞がある。一つは「ウィチタ・ビーコン」紙、もう一つは「ウィチタ・イーグル」紙であった。(中略)「ウィチタ・ビーコン」紙のマイクロ・フィルムは、あまり写りはよくなくて、実に読みづらい。しかし、何とか判読はできるので、読んでみると、日本のチームの評価はなかなかのものだったことがわかった。
両紙だけでなく、「サンフランシスコ・クロニクル」「エルコ・デイリー・フリープレス」「オグデン・スタンダード・イグザミナー」など、各地の新聞を追いかけると、少しずつ大会の様子や、日本人が属する「ニッポニーズ」の戦績が分かっていきます。
スコアが掲載されているだけでも大きな資料になり、メンバー表があればチーム事情を把握する大きなヒントになります。
当時の新聞社が、これらスコアを報道することに、どれだけの価値を見いだしていたでしょうか。おそらく掲載せず、ボツにしても大きな影響はなかったと想像できます。
しかし、たとえ数行であっても掲載されていたことによって、50年以上も後になって、当時の様子を追うことができたわけです。
もちろん関係者へのインタビューや、佐山さんの類いまれな分析力が加わって名作になっているわけですが、古い新聞の可能性を大いに感じ取ったものです。
後世に伝える役割
新聞は新しい情報を現代の読者に伝えるだけでなく、後世に引き継いでいく役割もあるのではないか。そんなことを考えるようになりました。
今は不要と思えるような小さな大会の記録が、後世になって貴重な資料になるかもしれません。また、100年、200年後の人々が、例えば私の記事を読んで清原和博や松井秀喜がどんな選手か知ると考えたら…記事に臨む心境がまったく変わってきます。
我々はつい、ライバル紙との競争や読者の反響など目前の目標に執着しがちですが、それに加えて後世へメッセージを残す役割を意識すると、より仕事に対する誇りが生まれるのではないでしょうか。
新企画「日刊スポーツ28,000号の旅」
さて、先日社内の企画会議で私は提案をしました。日刊スポーツのデータベースにある記事を掘り起こし、月日が経った現在ならではの解釈を交えながら記事にしていくという企画記事です。
仕事をサボって過去の記事を読みあさっていましたから、今あらためて読み返しても十分に記事になるという自信がありました。
この案が通り「日刊スポーツのデータベースという宝の山から、宝探しをする」というコンセプトで、新連載が始まることになりました。日刊スポーツは創刊以来、2万7000号を超える新聞を発行しています。これを、じっくり読み解きながら記事にしていきます。
タイトルは同僚のアイデアで「日刊スポーツ28,000号の旅」に決まりました。
そういえば、佐山さんの著書「史上最高の投手はだれか」にも、次のような文がありました。
翌日、私は当地最大の新聞社である「カンザスシティ・スター」社の三階にいた。(中略)今、私の目の前にあるのは、山と積まれたサチェル・ペイジに関する記事である。(中略)ともかくもこの新聞の伝えるところに乗って、ペイジの旅をしてみるより他はない。
膨大な古い新聞を読み返す作業は、まさに「旅」という言葉がぴったりと合います。日刊スポーツを巡る旅、ぜひお付き合いください。
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
コラム「手帳の余白」
日刊スポーツに「特別編集委員室」が立ち上がりました。取材経験が豊富、かつ表現力が豊かなライター集団。「日刊スポーツ・プレミアム」を中心に、健筆を振るいます。飯島智則編集委員は、コラム「飯島智則 手帳の余白」を随時掲載。どうぞお楽しみ下さい。
1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
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