【安藤美姫〈下〉】決意の手術 教え子に伝えたい五輪にしかない特別な時間
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第24弾は、指導者・安藤美姫(36)のいまを描いてきました。ジュニア男子の田内誠悟(15=富士FC)のメインコーチに今季途中に就任し、本格的に歩み始めたコーチ業。3回連載の最終回は、昨秋に肩の手術を決断した理由、手掛けるようになった振り付けの流儀、そして指導者として考える五輪の価値をひもときます。(敬称略)
フィギュア
「自分が動けるうちに」手術の訳
「ネズミが2匹、いたんです」
少し右肩をさすりながら、教えてくれた。
昨年9月、安藤は病院の手術室にいた。
メスを入れた肩は、もう古い付き合いだった。
「スピンの最中に脱臼して。でも選考があったのでそのまま演技して」
2006年の全日本選手権のSPで痛めた関節の古傷だった。世界選手権出場を優先させるため、金属アレルギーでもあったことから、手術を回避し、筋力強化や滑りをよくする注射でだましだましを続けてきた。
昨夏、アイスショーでの群舞の練習中に不意に肩が後ろに引っ張られたときに、亀裂音が鳴った。
「『バキッ!』って。自然に抜けるときには、戻せば『いてて』くらいだったんですけど、その時は3分くらい戻らなくて」
選手を引退後も睡眠時に外れるなどの症状はあった。ただ、この3分間が、しばし将来を考えさせた。
「年を取ったまま放置しておくと、おばあちゃんになってまずいかなって。年からの危機感も(笑い)」
念のために再検査を決めると、結果を見た医者の表情は曇った。
「関節唇損傷」「関節内遊離体(関節ネズミ)」「脱臼」
悪化していることは、応答で悟った。手術の勧めに決断した。
1つ、ずっと気になっていたこともあった。
「教えるときに、どうしても肩で制限がかかって。プロスケーターとしてよりも、コーチとして治したかった。自分が動けるうちに実際に動きで見せてあげたかったから」
スケート靴を履いて氷の上に立って、教えてあげたい。そのためにも決意した。
話を聞いた1月上旬、まだ患部の痛みは残っていた。
「この1月から動いていいよとリハビリの先生から言われたのでシングルアクセルをやってみたんですけど、なんかちょっと筋力が…。ずっとギブスしていたので落ちてて。筋トレもやってますが、これからですね」
1回転からやり直すこと。そんな経験はこれで3度目になる。
「大丈夫」と伝えたい
「もう、全然。高さはこんなんでしたよ」
笑いをこらえるように親指と人さし指で示したのは2センチほど。
「イメージはできてるんです! だけど実際は(笑い)」
2013年。4月に第1子を出産し、ラストシーズンへ練習を再開したのは5月。
「スケーティングは全然普通にできるんですよ」
骨盤が緩くなっている影響でスピンでは遠心力で痛さもあったが許容の範囲。ただ、衝撃はジャンプだった。シングル、ダブルと回数を増やして、コンビネーションを試みたが、浮かない。
「本当に何百回も転んで」
9歳で本格的に競技を始めたときから、「ジャンプの美姫」だった。苦労した経験はあまりない。それが“初心者”に戻ったようだった。信頼する門奈コーチに再び師事を仰いでの、2度目の1回転からの日々。
「でも、面白かったですし、楽しかったです。またなんかちっちゃい頃を思い出せて。1からシングルからダブルができる喜び、みたいな」
当時25歳。産後に競技者として復帰するケースは少なかった。いまでも同じだ。10年以上前のそんな日々も、いまは指導者としての生きた経験になると考えられる。
「諦めなければ、絶対に戻ってくるって伝えることはできる」
女子選手は特に、10代での体形変化から、跳べていたジャンプが跳べなくなる例は枚挙にいとまがない。
「トップ選手の精神性なら、それを乗り越えられる選手もいると思いますが、みんながそうではない。悩んでやめてしまう選手もいます。自分は両方を経験してるから…」
女性ホルモンのバランス変化で体重が増えやすい時期に、体形で悩んだ経験。大人になってから出産を経て、ゼロから3回転まで戻した経験。
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2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて17年。25年4月に初の異動で野球部へ配属となりました。競技経験はありませんが、現在は息子が通う少年野球チームで“球拾い”コーチとして奮闘中。記者としても、様々な話題を拾います。ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。クラフトビール好きです。
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