中田夕貴が近況を語る
中田夕貴が近況を語る

中田夕貴にとって、いよいよ胸が高鳴る時がやってきた。再び巡る戦いの日々を思っては、「イチから。いや違う、ゼロから取り組みます」とつぶやいた。

今回は『いま聞きたい、あの人に』をテーマに、中田の近況を取り上げる。フライング(F)による罰則で、4月20日の平和島を境におよそ5カ月もレースから離れている。戦列に戻ろうと懸命な姿を追った。

中田夕貴(左)がルーキー132期の滝沢織寧と練習の準備をする
中田夕貴(左)がルーキー132期の滝沢織寧と練習の準備をする

9月下旬でも猛暑なのか残暑なのか。うだるような暑さが続く中、今日も埼玉県・戸田ボート場では中田が元気に走り回っていた。次々とすれ違う関係者にあいさつし、係員に手助けされながら練習の準備を進めていく。この日は132期ルーキー滝沢織寧と顔を合わせると、ともに練習用のエンジンからペラを外し、ゲージをあててチェック。エンジンとボートもくまなく見るや、レースの合間を縫いながら水面へと飛び出していった。

練習へ準備する
練習へ準備する

聞き慣れないF3という事態を起こした。ボート選手はそれぞれ力量により、級班が最上位のA1からB2級まで4つに分けられる。その審査は半年ごと。現在23年後期の級班は昨年11月から今年4月の成績が反映され、中田はその間に3度Fを切った。昨年12月びわこで切ったFによる罰則30日間の休みは、今年3月に消化している。ただ、今年2月蒲郡(非常識F)と4月多摩川でF2からF3となり、現在はそれぞれに対する罰則休み65日間、90日間を合わせた155日を9月22日まで消化している最中だ。

水面に向かう
水面に向かう

ボートレースは選手が腕を上げるにつれ、戦う場も増えていく。中田も21年後期にA級に初昇格して、さらに多くのレースに挑んでいた。ところが春から夏と、スケジュール帳ががらんと空白だらけになった。休みに入った4月下旬を思い起こす。「何かしなければならない日、そういう日がずっとないなんて。学生の頃の夏休みでも、リポートや課題があったので」。

戸田ボート2Mへ艇を向ける
戸田ボート2Mへ艇を向ける

1度目のFはイン戦で勝ちたい、ファンの信頼に応えたい思いが。2度目は良機を生かそうと必死な思いが。3度目はやはりイン戦に、A2級キープへの思いも重なりスタート勘を乱した。勝負への執念を強くしたためでも、ファンや他選手、関係者に迷惑を及ぼし、その報いを受ける日々。「精神的にしんどかった」。もちろん、賞金もない。

この状況が進むにつれ、この状況を2度と招いてはいけないと悟った。そしてこの状況が今後はないなら、もうまとまった時間がないことにも気づいた。「とことん、多くの人にお会いしたんです。なかなか会えない人にも。交流が広がった。普段ならできない、他の世界を見ることができた気がします」。

心の隙間も、スケジュールの空白も、自らの行動で埋めていった。今まで通りにトレーナーの元でジムトレーニングに励む傍ら、他種目に挑む何人ものアスリートから話を聞いた。友人はもちろん、学生時代の恩師に会ったり、時には知人が営む飲食店を手伝ったり。

旅にも出かけた。8月下旬には地元埼玉県内のボートレースチケットショップでトークショーに臨み、ファンの熱気を感じ取った。自然と笑みが増えていく。一時的にプレッシャーから解放され、心と体がリセットされた自身の変化にも気づいた。

練習にいそしむ
練習にいそしむ

そして、あらためてボートレーサーが天職だと分かった。元より、このままフェードアウトの気はなかった。短大を卒業後に都内で1年半ほどOLだった経験もある。「養成所は高1から受けて、何回目で受かったっけ?」。6回と正確に思い出せないほど多くチャレンジし、養成所の訓練に耐えてつかんだレーサーの座。突き進む思いを強くした。日本レジャーチャンネルのレース中継を見ては、戦う選手に自身を重ね合わせて手に汗を握った。「レースの緊張は日常では味わえない。刺激もすごい。勝てばうれしいし、負ければ悔しい。こんな思いができるレーサーという仕事が好き、レーサーでいる自分が好きなんです」。

中田夕貴がホームにするボートレース戸田
中田夕貴がホームにするボートレース戸田

中田は取材中に何度も「不安だらけだが頑張ります」と話した。もちろん、良質のスタートは繰り出せない。後手に回っても勝てるのか? 練習に励んでいても、そのエンジンは昨年までの仕様で、現行のエンジンと体感が違う。春から夏を飛び越え、空気が乾く秋に合わせた調整ができるか? 課題は山積みでも、復帰戦(平和島9月25~28日)が決まり、「うれしい」とテンションが上がる。冒頭の言葉通りに、ルーキーのようにゼロから挑む姿に注目したい。【野島成浩】

◆中田夕貴(なかだ・ゆき)1992年(平4)9月29日、埼玉県生まれ、武蔵丘短大卒。同校時代にエアロビクス全日本学生選手権チーム部門3位。スポーツ推薦枠で養成所の試験に合格、117期生(登録番号4900)として15年11月戸田でデビュー。17年1月からつで初勝利、21年10月桐生ビーナスシリーズで初優勝、22年前期にA1級へ初昇格、同2月桐生でG1初出場初勝利、通算獲得賞金9857万6351円。身長153センチ、体重47キロ、血液型AB。107期中田友也は兄