拳矢が地元のビッグで決勝に乗った。何か夢を見ているようだ。兄の聖矢が「自転車に乗る」と言ったのが113期の試験を控えた春。当時大学2年だった拳矢は、何かを感じたのだろう。大学1年の時から「大学をやめたい」と言っていたから絶好の機会だったのかもしれない。「僕も競輪選手になりたい」と夏に言ってきた。高校や大学を卒業する頃になると、自分の将来もぼんやり見えてくる。そんな気持ちが分かったからこそ、私は聖矢や拳矢が選手になることを反対しなかった。紆余(うよ)曲折はあったが、何とか117期としてデビューした。

ヤマコウの次男山口拳矢
ヤマコウの次男山口拳矢

拳矢は親が想像できない何かをしでかす。113期を卒業できなかったこともそうだし「そろそろマイカーも持たないと」と思い、行きつけの自動車販売店に連れていった時もそうだ。私は古いキャデラックを勧めようと思っていた。しかし、拳矢が選んだのはロールスロイスのロングホイール版。大企業の社長や、ロイヤルファミリーが乗るような車を選んだ。「何で?」と聞くと「カッコいいから」と言う。25歳で初めてマイカーを購入するのに、ロールスをカッコいいと言う感覚が分からなかった。

その販売店の社長も「私も35年お店をやってきたが、初めてのマイカーで、これを買う人は初めてだ。行き着くところまで行って下さい」と激励なのか、あきれているのか分からない返答だった。それ以来、岐阜競輪場周辺で「きっちり制限速度を守るロールスロイスをよく見かける」と岐阜の柴田祐也が言っていた。拳矢はああ見えて、実は真面目なのだ。レーススタイルも賛否両論がありながら、自分を貫いている。個を貫く大切さを拳矢から学んでいるような気がする。優勝してたくさん泣かせてほしい。(日刊スポーツ評論家)

※ヤマコウコラムは次男の山口拳矢が決勝に進出したため、予想はありません。