ボートレーサーには70歳を超えて、現役の選手がいる。そのひとりが高橋二朗(75=東京)だ。1971年(昭46)にデビューして、選手生活は今年が54年目。若手時代に「細く長く選手を続けよう」と決め、いまだに実践している。全国のボートレース場を駆け巡りながら、休日は趣味に全力投球。若々しい走りを水面で見せている。
◇ ◇ ◇
高橋二朗は変わらない。ボートレース場でのしぐさや、歩き方、トレードマークの長髪を後ろでまとめるスタイルも、20年ほど前からほとんど一緒だ。ひとつ変化があるといえば、髪の色がグレーから白になったことくらいか。
高橋 健康の秘訣(ひけつ)は睡眠をたくさん取ることだね。家にいるときは8時間。朝は5時に起きる。途中トイレで起きることはあるけれど、睡眠時間はしっかりと取っている。レース場にいるときは、もっと寝ているよ。10時間は寝ているかなぁ(笑い)。食事は野菜中心。旬の野菜を食べるようにしている。
レースでも若々しいが、休日もアクティブだ。趣味だったウインドサーフィンは、肺気腫になったため医師から止められた。沖でひとりでいるときに症状が出ると命にかかわるからだ。今の趣味はゴルフ。
高橋 朝5時に起きてまずするのは、庭にあるグリーンでパットの練習。自宅の近くにゴルフ場があるし、今は2日くらいしか休みがなくても1日はゴルフに行っているよ。身体を動かしていないと具合が悪くなるんだ(笑い)。
71年11月に平和島でデビュー。以来、けがは何度もしたが、選手生命を脅かす大けがはなく、53年もの間走り続けてきた。決して華々しい経歴ではない。ボートレースで最も大きなタイトルはSG戦と言われるもので、現在は年に8回行われる。高橋はそのSG戦に出場したことがない。
転機があった。
高橋 若いときは上を目指していたよ。でもデビューして3年目くらいかな。そのときの成績が一番良かったと思うけれど、1着が続くと力が入ってフライングをしてしまうんだ。お客さんも分かっているのか、勝っていると「そろそろフライングを切るぞ」と(笑い)。
フライングとは制限時間よりも早くスタートしてしまうこと。フライングした選手がらみの舟券はすべて返還となり、選手は30日間レースに出走できない罰則がある。ボート用語ではフライング休み、またはF休みと言われている。
高橋 F休みが続くと無収入だからね。そのときに思ったんだ。自分を抑えて走ろう、細く長く選手を続けよう、と。当時のトップ選手たちのピークは30歳くらい。そしてピークを過ぎたころに辞めていく感じだったから。自分はなるべく長く選手を続けたいと思ったけれど、75歳まで現役で走っているとは、当時はまったく思っていなかったよ(笑い)。
ここまで続けてきた理由は、大けががなかったことと、もうひとつレースを走るのが好きだったことが大きい。
高橋 若い選手の中でも、早く選手を辞めたいという人が結構いるんだよ。経済的に続けないといけないから続けている、と。そう言われると「俺は1度も辞めたいと思ったことはないぞ」って言うんだ。レースが好きというのはある。自分もレースすることが怖くなったら、辞めるんじゃないかな。
体力の衰えはあまりないが目の不安はある。ボートレース場のスタート付近には大きな時計がある。選手はそれを見ながら、タイミングを計ってスタートする。その時計が見えにくくなっている。
高橋 だから最近はなかなか1着が取れない。若い人の言う「質のいいスタート(全速力でスタートすること)」ができない。でもファンから言われたんだ。「二朗さん、3着でいいんだ。3着に入ってくれれば、私らは舟券として買えるんだから」って。
自分を信じて舟券を買ってくれるファンがいる。応援してくれる人がいる。それが現役選手としての高橋の背中を後押ししている。【三上広隆】
◆高橋二朗(たかはし・じろう)1949年(昭24)4月26日、千葉県生まれ。71年11月の平和島でデビュー。初勝利は72年1月の江戸川。77年3月の福岡で初優出、同年12月の児島で初優勝。ここまで優勝は20回。今年6月末日時点で通算1445勝。
【公営競技のベテラン選手】(7月1日現在)
▼ボートレース 高橋二朗よりも年上なのが77歳の高塚清一。勝つたびにボート史上最年長勝利の記録を更新し続けている。6月には津でベテラン選手によるマスターズリーグに出走。18日の2Rでは1着が77歳の高塚、2着が75歳の高橋で、合計152歳という歴史に残るワンツーを決めた。
▼中央競馬 最年長騎手は柴田善臣で1966年生まれ、7月30日に58歳になる。こちらも勝利ごとにJRA最年長勝利記録を更新している。
▼地方競馬 大井競馬所属の的場文男は1956年9月生まれの現在67歳。73年にデビューし、ここまで7424勝。今年は、2月に左膝を痛めてから騎乗はない。
▼競輪 1962年生まれの選手が数人いるが、現役最年長は5月23日生まれの佐々木浩三。
▼オートレース 70歳以上の選手が17人いるが、最年長は1946年8月23日生まれの鈴木章夫の77歳。また49年生まれ75歳の篠崎実は73歳時に優勝し、公営競技史上最年長優勝記録を持つ。





















