昨年12月、TBS系クイズ番組「東大王」で、タレントのゆきぽよ（24）が「J1最速優勝クラブは、川崎○○」という問題を「川崎マドレーヌ」と回答し、SNSなどで話題になった。そこから24時間を待たずして、川崎フロンターレはツイッターに、クラブマスコットの焼き印が入ったマドレーヌの写真を投稿した。「今話題の？！『川崎マドレーヌ』販売決定！　J1最速優勝記念にぜひ！」。このスピード感は、一体どうなっているのか。川崎Fでスタジアムグルメを担当する田中信光さん、グッズ製作を担当する小山友輔さんに、話を聞いた。

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川崎Fはサポーターのトレンドに敏感なクラブだ。FWレアンドロ・ダミアンがチームメートのSNSにいつも「Joga Muito」（いいね、の意味）とコメントしていることが話題になると、「＃Joga Muito」Tシャツを発売。MF脇坂泰斗がDAZN内の先発紹介写真で「きゅんです」（親指と人さし指でハートマークを作る）ポーズをしていることが話題になると、まるでアイドルのライブグッズのような「脇坂きゅんです。」タオルを製作した（近日発売予定）。

田中さんによると川崎Fでは、SNSなどでチームが話題になっている際、社内のチャットで情報を共有し合っているという。「マドレーヌ」の件は、くだんの番組終了後に広報担当のスタッフから「ツイッターで話題になっている」と連絡を受けた。田中さんは「5分後には、スタジアムの常設店舗『エフスイーツ』の店長さんに『次の試合までになんとかなりませんか』とメールをしていました」と明かす。

先方の対応も早く、翌日の昼すぎには完成イメージ画像が送られてきたという。そして同日夕方、焼き上がったマドレーヌの写真とともに、ツイッターでスタジアムでの販売が告知された。すると、このスピード感がまた話題に。田中さんは「あんなにリアクションがあると思っていませんでした。悪ノリでネタを考えるときが過去にもあったので、いつもの感覚でやったのですが」と笑う。

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「マドレーヌ」以外にも、川崎Fのスタジアムグルメ（スタグル）は凝ったものが多い。特に今季は試合ごとにテーマをひとつ決め、スタジアム内の全7店舗で足並みをそろえた企画メニューを提供している。

鳥栖戦では、鶏肉や卵を使用した「鳥」料理を展開。大分戦は、開催日の4月3日（シーサー）にちなんで「沖縄料理祭り」を開催した。徳島戦では、特別指定選手が「特指（とくし）」と呼ばれていることにちなんで、特指出身選手の名前を絡めたメニュー（「三笘薫の香るスモークチキン」「脇坂のわきざカレー」など）を販売した。

こうした企画は、田中さんが各店舗に具体的なメニュー案とともに投げかけているという。前半戦でホームゲームの多い今季は、テーマやメニューをストックする「ネタ帳」まで作っている力の入れよう。田中さんは「8割くらい、僕のわがままを聞いてもらっています」と、協力してくれる店舗への感謝を忘れない。

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川崎Fはグッズにもこだわっている。前述の通り、サポーターの話題に合わせた商品展開をしているほか、今季は毎週金曜日に必ず新商品を発売している。

グッズ製作を担当する小山さんによると、これはファン、サポーターがクラブとの接点をもつための「きっかけづくり」だという。コロナ禍で約4カ月リーグ戦が中断した昨季、クラブはサポーターとの接点を失った。毎週金曜日に新商品を販売すれば、仕事帰りや学校帰りのサポーターがショップに来店しやすくなる。19年シーズンまでは新商品を店舗で優先販売することが多かったが、来店できないサポーターのために、ウェブでもすぐに購入できるようシステムを整えた。

小山さんは「毎週新商品を出すのは正直しんどいですが、サポーターの声から生まれた商品も多いです」と話す。グッズ製作担当になる前は、ショップ店員をしていたという小山さん。クラブオリジナルの御朱印帳は、ショップに来店したサポーターから「アウェー遠征で御朱印を集めている人が多い」と聞いたことが、製作のきっかけだった。「私たちは試合を観戦しないので、実際にどういうタイミングで何が欲しいのか、分かりません。サポーターのおかげでグッズができています」。ニーズに応じたユーモアある商品展開で、サポーターの心をつかんで離さない。

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川崎Fのこうした「ユーモア路線」を引き継ぐ重圧もあるという。17年の初優勝以降、クラブはタイトル獲得のたびに「風呂（フロ）おけ」を優勝シャーレに見立てて掲げてきた。ヒノキのおけから始まり、漆塗り、アルミ、石、芝生、ライトストーン、食べられるものまで…。元は小山さんの前任の担当が始めたものだった。「文化として継続していきたいです。ありがたいことに、勝ち続けるうちにプレッシャーになっていきます」と小山さん。首位を快走する川崎Fでは、ピッチ外で奔走するスタッフもうれしい悲鳴を上げている。【杉山理紗】