【リール(フランス)5日=塩畑大輔】日本代表監督に就任するバヒド・ハリルホジッチ氏(62=ボスニア・ヘルツェゴビナ)がフランスで取材に応じ、12日に正式決定することを示唆した。同日、日本サッカー協会の霜田正浩強化担当技術委員長(48)が、同氏を12日の理事会に推挙すると明言した。霜田委員長から次期監督候補者について具体的な名前が出るのは初めて。2月3日に八百長関与疑惑でアギーレ前監督が解任されてから約1カ月、次期監督が事実上決定した。

 自宅の玄関先。セキュリティー解除音と、真っ白なかわいらしい小型犬とともに、ハリルホジッチ氏が姿を現した。日本代表の次期監督候補として名前が挙がってから、日本のメディアの前に現れるのは、これが初めてだ。両手を顔の前で大きく振りながら「申し訳ない。12日だ。12日」と繰り返した。

 同氏は「いろんな人からメッセージはもらっているけど、とにかく12日までは何も言えない。1つ1つのメッセージを吟味するなんてできない」と続けた。事情を丁寧に説明はするが、自分だけが誰か特定の人間だけに、先んじて情報を漏らすこともしない。公平で誠実な人柄をにじませる応対の後に「おいで、おいで」と小型犬を呼び込んで、手を振って玄関に消えた。

 そんなハリルホジッチ氏について、古巣リール周辺の旧知の指導者、メディアはそろって「日本で成功できる」と太鼓判を押す。リールで15年クラブ取材をしてきた、RMCスポーツ(テレビ・ラジオ)のジャン・ボメル記者は「規律に厳しいところは、きっと生真面目な日本人には合うと思う」とうなずいた。

 ハリルホジッチ氏が当時2部のリールの監督に就任し、1部昇格、そして欧州チャンピオンズリーグ出場に導いた当時の様子を「練習場に出てくる際などに、まっすぐ歩いていないというだけで、選手を厳しくしかっていたのが印象的」と振り返る。1人1人と本気で向き合い、選手として、さらに人間としての成長を促すのがハリルホジッチ氏の流儀だと強調した。

 14年W杯でハリルホジッチ監督のもと、アルジェリア代表のアシスタントコーチを務めたノルディング・クリシ氏(60)は「彼は簡単に仕事を引き受ける人ではない」と証言。「今回はプロジェクトの背景もすべてよく考えた上での決断だと思う。もちろん、いい選手がいることも考慮した上のはず。そうやって仕事を決めることで、アルジェリアでも成功を収めた」と、就任するからには成算があるはずだとした。

 生真面目さと厳しさ、そして優しさをにじませる人柄は、かつてのオシム監督を思わせる。病魔に倒れ、道半ばで退任した母国ボスニアの先達の後を継いで、ハリルホジッチ氏が日本でのプロジェクトに乗り出す。

 ◆バヒド・ハリルホジッチ 1952年10月15日、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)のヤブラニカに生まれる。フランス1部ナントなどで活躍したFWで、ユーゴスラビア代表で15試合8点。母国ベレジュで指導者になり、パリサンジェルマンでフランス杯制覇。リールでは仏年間最優秀監督。08年コートジボワール代表監督に就任し、10年W杯南アフリカ大会出場権を獲得後、本番前に解任された。14年W杯ブラジル大会ではアルジェリア代表を16強に導いた。家族は夫人と子供2人。182センチ。