バヒド・ハリルホジッチ監督(64)と、元名古屋監督で、プレミアリーグのアーセナルを率いる名将アーセン・ベンゲル監督(66)の豪華対談が実現し、6日午後7時からWOWOWプライムで放送される(「UEFA EURO 2016 ハリルホジッチ 大会総括リポート アーセン・ベンゲル緊急参戦!」)。

 ともにフランスと日本に縁が深い。旧知の間柄で、対談は大いに盛り上がったという。その一部をお届けする(協力=WOWOW)。

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 --ハリルホジッチ監督は、日本はPKを獲得することができないとよく言っている

 ベンゲル(以下ベ) PKを獲得するという習慣がないから。

 ハリルホジッチ(以下ハ) (笑い)。彼らにはまず「ずる賢さ」という言葉の説明をする必要があったし、さらに「デュエル」という言葉の存在も理解していなかったので驚いた。

 ベ 「ずる賢さ」とは自分寄りにサッカーのルールを最大限に生かすということ。

 --イタリアみたいにですか?

 ベ いや、違う。日本人は正直だし、そういう性格を個人的にも好んでいる。でもサッカーで「ずる賢さ」という言葉を使う時、マイナスな意味で話している訳ではない。

 ハ そう。サッカーにおける知能ということ。

 ベ その通りだ! 相手の弱みを利用するということだ。

 ハ まさしく、それだ。決して悪意がある訳でもないし、辱める行動でもない。

 ベ そう。そういうことでは、まったくない。

 ハ 日本では考え方が違う様だ。

 ベ 彼らは「イカサマ」という意味で捉えてしまっている。でもサッカーでは1つの知能として考えなければいけない。

 ハ 「狡猾」(malin)という言葉が的確だと思う。この言葉の意味を日本人にしっかり伝えたかったのに、反応が無邪気で驚いた。「ずる賢さ」「狡猾」とかの説明をしているけど、それは決して「イカサマ」ではない。アーセンがこのことについて話してくれてうれしい。

 ベ 日本人が忘れていることは、FWの選手はペナルティーエリア内に入ったら、王様になるということ。だからDFはむやみにファウルできない。ボールと一緒にエリア内に入って、相手DFがタックルしてくるのが見えたら、自分の足を前に出せば、タックルが足に当たりますよね?

 ハ 体を前に入れることもできる。

 ベ 体を前に入れて倒されたらPKになる。

 ハ そしてレッドカードも出る。

 ベ そう、レッドカードも(笑い)。でもそれは決して「イカサマ」ではない。自分寄りに、相手の弱みをただ利用しただけだ。

 --日本サッカーの現状、そして未来について。Jリーグのレベル、ACLでもアジアのライバルに(成績で)抜かれている。ここ5年ほど、本田、香川に続く選手が出ていない。これからの日本はどうするべきか。

 ベ 日本がそういう現状になっていることには少々驚いている。ドイツでプレーをしている最近の日本人選手は、それなりに活躍していると思うし、イタリアでも日本人は活躍している。でも、Jリーグについては前ほど見ていないので話すことはできない。

 逆にヴァイードの方が身近で見ているので、Jのレベルの話をすることができるだろう。私が日本にいた当時は、各クラブに優秀な外国人選手が3人在籍していて、彼らが日本人選手のレベルを上げていた。レベルの高いサッカーをするためには、レベルの高い選手がいなければいけない。彼らが他の選手を成長させるのだから。

 そういう意味では今のJリーグの外国人選手の質は、私がいた時より下がっていると思う。

 --外国人監督も少なくなっています

 ベ 今、日本にどういう監督がいるのかは知らないし、選手や指導者、育成の質がどのレベルにあるかは身近にいるヴァイードの方が把握している。

 ハ 日本は残念ながらW杯やアジア杯で結果が出せず、多くの人々ががっかりしている。私自身は日本国内のサッカーをよく見ていて、時間さえ作れれば選手を集めて短期合宿を行っている。

 今の日本はトレーニングをはじめ、育成年代、プレ育成年代の根本的な改革が必要とされている。特に、フィジカル面において。

 日本人選手はテクニックに関してはうまい選手がたくさんいる。ただ「デュエル」という言葉を初めて使ったとき、それはどういう意味ですかと聞かれて、その質問が衝撃的だった。サッカーは「デュエル」で成り立っているのに。

 日本にも「デュエル」がどれだけ重要なことなのか日々伝えている。身長が足りなくても、フィジカルを強くすることは可能だし、競り合いに負けない体を作らなければいけない。レフェリーには、ちょっとしたコンタクトでも笛を吹いてしまうので、もっとゲームを流すように伝えた。

 これらのことを踏まえても、これからの日本のサッカーは育成年代をはじめ、いろいろな改革をする必要がある。

 現代フットボールは著しく進化しているので、日本も攻守に渡ってどういうところが進化しているのかを分析して、日々のトレーニングでしっかりと対処をしなければいけない。