日本代表MF柴崎岳(30)が、前回のワールドカップ(W杯)ロシア大会に続き、故郷のシンボルとともにピッチに立つ。愛用するアンブロのスパイクには、ロシア大会から青森のエッセンスを盛り込んだデザインが施される。今回のカタール大会では青森・十和田の伝統工芸品・きみがらスリッパの文化が盛り込まれている。故郷青森への感謝の思いを背負い、再び大舞台へ挑む。

青森の思いを乗せ、W杯でプレーする。柴崎が使用するスパイクのメーカー、アンブロではロシア大会の18年夏から、柴崎の故郷の青森の要素を盛り込んだ「U by GAKU collection」を制作してきた。ロシア大会では津軽に伝わる刺し子の「こぎんさし」。シリーズ5作目で、カタール大会で着用するスパイクは、十和田の伝統工芸品・きみがらスリッパがモチーフのデザインとなった。

きみがらとは青森の方言でトウモロコシの皮。かつて馬産地だった十和田市は飼料用トウモロコシの栽培が盛んで、再利用のため、昭和20年代から制作が始まったという。

柴崎は「十和田きみがらスリッパ生産組合」の宮本桂子組合長の手ほどきを受け、スリッパづくりを体験。トウモロコシの皮を編み込んでいく作業を通し職人の思いを体感した。「技術がしっかりと詰め込まれたきみがらの文化を体験できて、リスペクトと、作業の大変さを実感しました。長年、続いている文化に出会えたことは、非常に楽しくもあり、これからもそういう文化が残っていってくれたら」と、新たな故郷の文化に触れ気持ちを新たにした。

分野は違えど、柴崎はサッカーの職人。スパイクは技術を発揮する大事なツールだ。そこに故郷の文化を盛り込むことに「日本古来からある、世界には他にない文化とコラボレーションさせていただいて、サッカーを通して、違った分野の文化を広めていけるというのはうれしく思う。これを機に、きみがら文化を知ってくださる方もいらっしゃると思う、自分の履いているスパイクがそこに貢献できている、これからも貢献したいという思いはあります」と話す。

青森は18歳まで過ごした。鹿島に加入し、プロの道を歩み始めたが「いつになっても自分が育った地域への感謝、特別な思いは変わらず持っている」と自負する。地元では冬にはスキーのクロスカントリーに励んでいた。「疲れるんですよ。でもそれで体力を付けたかな」と懐かしむ。「18歳まで青森県でプロになるために練習して今がある。今回の体験もそうですが、周りにいる人たちの協力があって成り立っているものはたくさんある。そういった思いを胸にしっかりとプレーしたい」と誓う。

ロシア大会では1次リーグ、決勝トーナメントの全4試合で先発出場を果たした。最後のベルギー戦では、柴崎の鮮やかなスルーパスから追加点が生まれ、勝利が近づいたが、ロスタイムに逆転弾を浴びベスト8の壁を越えられなかった。ロストフの悲劇の経験者として、まだ見ぬ景色を見る強い思いを持って、再び大舞台へと向かう。

1次リーグはドイツ、スペインの強豪と同組だ。突破に必要なことに「各々が、コンディションをできる限りいい状態で大会に臨むことが大事。初戦、グループステージを戦う上でというよりは、その前から勝負は始まっている」と見据える。「ベスト8に行くのは1つの目標」と掲げ、柴崎がカタールへ向かう。【岩田千代巳】

◆きみがらスリッパ 馬の飼料であるデントコーンの皮を材料にした伝統工芸品。十和田市では軍馬産業が盛んで、飼料のデントコーンの皮は廃棄されてきた。1947年(昭22)から、デントコーンの皮の再利用としてつくられるようになった。材料の生産から仕上げまで手作業で行っており、熟練の職人でも1日1~2足ほどしかつくれない。1足120グラムと軽く、通気性があり丈夫なのが特長。冬は温かく夏は涼しい。

<U by GAKUの歩み>

◆18年夏 テーマは「こぎんさし」。藍染めの補強を目的にさしこを施し発展した津軽の文化。戦での勝利を願うお守りの意味も持つ。

◆19年春 テーマは「唐塗」。津軽塗の代表格で、唐は珍しく優れたものの意味。乾かし塗り重ねる塗り技法で2つと同じものは生まれない。

◆20年春 テーマは「大山桜」。岩木山山麓の20キロの桜並木で知られる。花びらの桜色がプレースタイルを、軸の濃い桜色を芯の強さに重ねて表現。

◆20年夏 テーマは「ねぶた祭り」。東北三大祭の1つ。日本を代表するねぶた作者・北村麻子さんの描きおろし原画で決戦に挑む姿を表現。

◆22年冬 テーマは「きみがらスリッパ」。手仕事で仕上げる十和田の伝統品のスリッパ。飼料用のトウモロコシの皮を有効活用したことが起源。