ボクシング男子ライトウエルター級の準決勝で0-5の判定負けし、銅メダルだった成松大介(28=自衛隊)は、取材エリアで一通り話を終えた後、報道陣の作業スペースへやってきた。

「お伝えし忘れていたことがありました」

そう言うと、言葉をつなぎ始めた。「この傷を治してくれた先生方に御礼を言いたくて。先生方がいなかったら、絶対に試合に出られなかった」。

それは29日の準々決勝。第2ラウンドの45秒で、相手のイラク選手の頭と接触し、頭部右側から大量に出血していた。その後の取材エリアでは開口一番「大丈夫じゃないです」と口にしていた。この日の準決勝の出場は、危ぶまれていた。ホチキスで3カ所止めて、糸で縫ったのは、この日朝。麻酔はなく「頭蓋骨を感じる」という。もちろん、ケガ以降は「汗かくと血がにじむ」と練習もできなかった。

準決勝は、昨年の世界選手権2位のイクボルヨン・ホルダロフ(ウズベキスタン)に完敗だったが、医師やスタッフの懸命な治療のおかげで、諦めかけていたリングに立てた。「それを書いていただきたくて」。ボクシング連盟から助成金の流用を強要され、一連の騒動で話題になった28歳は、正義感とおとこ気にあふれていた。