箱根に山下りのスペシャリストが現れた。日体大6区の秋山清仁(3年)が、区間記録を22秒上回る58分9秒の新記録をマークし、2年ぶりのシード権獲得に貢献した。中、高は男子部員が少ない陸上部に所属し、駅伝経験はゼロ。高校時代にずっと夢見た2度目の6区に、自らの名前を刻み込んだ。

 何度も何度も思い描いた箱根の山。日体大・秋山は時計を見ずに走った。往路はトップから12分17秒差の13位。芦ノ湖からの10分遅れの一斉スタートで、前を追うしかなかった。

 下りとは思えないほど、ぐっ、ぐっと力強く地を蹴り、進む。函嶺洞門を過ぎたあたりで、日大、早大を抜き去り、総合では7位だが見た目では4番目に小田原中継所にゴール。直後、初めて新記録に気づいた。「区間賞を取ろうとは思ってたけど、区間新はびっくりです」。無心の大記録。最優秀選手賞候補に挙げられたが、優勝した青学1区久保田に譲る形となった。

 自身もかつて山を下った渡辺監督は秋山を「下りオタク」と称した。「彼は走りたい、走りたい、という気持ちが強い。下っていくのが快感なんでしょう」。理由があった。秋山は中、高と、いずれも部員不足で駅伝大会に出場できなかった。「苦しかった。でも勉強になる」と強豪女子駅伝部のサポートに回った。女子のスピードに合わせても練習にはならない。それでも進んでペースメーカーを買って出た。高2で同行した都大路では場所取りや応援旗の設置に務めた。

 心の支えとなったのは当時の監督からの「下りのフォームがきれい。向いているぞ」という言葉。「大学で山下りをする、と思って頑張っていました」。この日、コース途中の大平台では高校の1つ下の後輩、布施温菜さん、有薗早優さんが待っていた。走りながら2人を見つけるとうなずいた。後輩は泣いていた。

 バルセロナ、アトランタ五輪の谷口浩美、シドニーの川嶋伸次。日体大の6区には、世界へと羽ばたいた大先輩がいる。解説の瀬古氏からは「例に倣って頑張ってください」と激励を受けた。秋山の夢は体育教師。「今まで五輪は1度も考えたことがない」と笑いながらも「さらに高いレベルで頑張りたい」と自信をみなぎらせた。箱根に新たなスターが誕生した。【高場泉穂】

 ◆秋山清仁(あきやま・きよひと)1994年(平6)11月19日生まれ、東京・板橋区出身。志村五中、順天高では陸上部に所属。5000メートルのベストは14分26秒78、1万メートルは29分43秒03。169センチ、56キロ。家族は両親、弟。