1968年メキシコ五輪男子マラソン銀メダルの君原健二さん(75)が4月18日に行われるボストン・マラソンに半世紀ぶりに挑戦する。

 第120回を迎える伝統のレースでは50年前の優勝者を招待することが慣例となっており、第70回大会覇者の君原さんは「ビッグなプレゼント。ゴールすることで感謝の気持ちを表したい」と意気込む。

 66年当時はアスリートとしての士気を失っていた時期だった。期待を背負った64年東京五輪で8位に終わり「あの責任感やプレッシャーはもう味わいたくない」と立ち直れずにいた。新婚で私生活が充実していたこともあり、ボストンで栄冠を手にしても「次の五輪への意欲は生まれなかった」と述懐する。

 しかし、周囲が才能を放っておかなかった。1カ月ほどたつと、所属先の八幡製鉄で指導者だった故高橋進氏から説得を受け、熱意に折れて本格的に始動。東京五輪銅メダルの円谷幸吉さんがメキシコ五輪の年に自殺する悲劇を乗り越え、2度目の五輪で表彰台に立った。号砲前に「ここに立ちたかっただろうな」と親友のことを強く思い、懸命に走ったという。

 72年ミュンヘン五輪では5位に入り、第一線を退いてからもマラソンを続けてきた。ことし2月21日に催された地元の北九州マラソンでは4時間29分31秒で完走。ボストンでもう一度走ることを夢見て「目標があるからつらいときも頑張れる」と練習に励んできた。

 万感の思いで臨むレースにはメキシコ五輪代表争いで涙をのんだ采谷義秋さん(71)が駆け付ける予定という。3月に入って右すねを痛めたが、生涯ランナーを公言する君原さんは「応援してくれる人のためにも完走したい」。帰国後には福島県にある円谷さんの墓前に報告に行くつもりだ。