後半の追い上げを支えたストライドの長さには秘密がある。入社前まで過ごした兵庫・尼崎市の自宅では正座禁止だったという。母麻理さん(43)は「母から『アメリカの人が足が長いのは椅子だから』と教えられたので」と理由を説明。冬もこたつを用意せず、骨に無駄な負荷がかからぬように椅子に座って食事した。166センチ、46キロと線は細いが、大食いの一面もある。当時、自宅では家族4人で7合の白米を炊いた。両親と弟が暮らす現在は3合だけ。1人で1日4合を平気で食す、そのエネルギーも走りの源だ。

 この日は麻理さんと父哲宏さん(43)の結婚記念日。2人の新婚旅行も北海道だった。記念の日、土地で快走し、最高の親孝行にもなった。その両親がドラマ「東京ラブストーリー」のファンで、ヒロイン役だった女優鈴木保奈美と同じ読み方の「穂南」と名付けられた21歳は「忘れてました」と苦笑いも「喜んでくれたならよかった」と頬を緩ませた。【上田悠太】

 ◆前田穂南(まえだ・ほなみ)1996年(平8)7月17日、兵庫県生まれ。尼崎北小6年まで1年間ミニバスケットボール部も、学内のマラソン大会で上位進出を機に中学から陸上転向。穂南の字は「優しい子に育って欲しい」との思いが込められ、そのイメージのある穂と南が当てられた。今年1月の大阪国際女子は2時間32分19秒の12位。

 ◆日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーの話 夏のマラソンを元気よく最後まで走りきってくれたのは素晴らしい。前田選手は走り方が柔らかいので、今後伸びそうな感じがある。早くGCに決まった人はどんどん新しいチャレンジをして欲しい。