日本スプリント戦線の熱気は増し続けている。陸上のナイトゲームズ・イン福井の男子100メートル決勝で、ケンブリッジ飛鳥(27=ナイキ)が日本歴代7位タイとなる10秒03(追い風1・0メートル)を出した。今までの自己ベストは17年の10秒08。周囲が好記録を出す中、低迷が続いた2年間の憂さを晴らすように、予選の10秒05(同0・9メートル)に続き、過去の自分を軽々と超えた。

レースから一夜明けた30日、男子短距離日本代表の土江寛裕・五輪強化コーチ(46)は「この2年半は苦しんでいましたが、本来はオリンピックの決勝に行ける可能性を秘めた選手。これからも本当に楽しみです」と話した。

そして「他の選手にも好影響になりますよ」と相乗効果にも期待した。日本歴代10傑は、過去3年以内に生まれた記録が6つを占める。

9秒97 サニブラウン・ハキーム(19年6月)

9秒98 桐生祥秀(17年9月)、小池祐貴(19年7月)

10秒00 山県亮太(18年8月)

10秒03 ケンブリッジ飛鳥(20年8月)

10秒07 多田修平(17年9月)

対して東京オリンピック(五輪)の男子100メートル代表枠は3。ケンブリッジが低迷を脱したことで、争いはさらに熾烈(しれつ)を極めてくる。「競争し、少ない席を奪い合うわけですから」と土江コーチ。身近にライバルがあふれ、油断していれば、すぐに取って代わられる。焦りは禁物だが、緊張感は成長を促す糧になる。

今季はコロナ禍による異例のシーズン。ケンブリッジに限らず好記録が多く誕生しているが、本来の実力を出せていない選手も多い。土江コーチは「練習環境に差もありますから、今季の結果を本来の力関係と見るべきではないと思います」とも付け加える。

金メダルを狙う男子400メートルリレーにとっても、ケンブリッジが輝きを取り戻した意味は小さくない。終盤が持ち味だから、最長130メートルを走る第2走者でもいい。競り合いを制す勝負強さを備えるだけに、リオ五輪時と同じくアンカーの適性もある。起用の幅も増し、それは日程が詰まる五輪では、チームの「総力」として武器になる。リレーは「走力」以外の力も勝負を分ける。

また土江コーチはケンブリッジの人間性も評価している。「悔しかったと思うのですけど、チームと一緒に動き、リレーへ向けた雰囲気も作ってくれました」。メンバーを外れた昨秋の世界選手権(ドーハ)も、貴重な役割を担っていた。

例年よりスポーツの影が薄い夏だが、東京五輪までのカウントダウンは進む。日本スプリント界の覇権争いは、どんどん激しさを増していく。【上田悠太】