「応援したいから、応援にいかない。」。このキャッチコピーが、第97回東京箱根間往復大学駅伝(来年1月2、3日)に付いた。選手の原動力となる応援の声は飛沫(ひまつ)、仲間と集まるのも密とされる。生で声をかけることも、生で目に雄姿を焼き付けることも、かなわない。連載「コロナ禍の箱根」の第2回。日本テレビは、沿道の観戦自粛が求められる大会を、どんな思いで中継するのか-。【取材・構成=上田悠太】

現地へ応援に行けない。そんな大会の中継を担う日本テレビの望月浩平プロデューサー(40)は言う。

「普段ならば、お目当ての選手、大学を沿道で応援していた方も、今回は観戦できません。放送できる唯一のテレビ局として、伝えて、残す責任があります」

“無観客”だからこそ、徹底する心構えがある。「フルネーム大作戦」。選手や家族には「一生の宝物」となる大舞台。だから、中継で絶対に全員をフルネームで伝える。タスキを受けて走りだし、渡して走り終える中継所は全チームを映す。「毎年意識している」放送の原則を、今回は厳守する。撮り逃し、言い逃しは、テレビで見るしかない人にとって、待ち望む瞬間がないことになるから。「首位交代」「ごぼう抜き」「ブレーキ」「2位交代」も外せない要素だが、今大会はいろんな大学を映すことが使命と受け止める。

“無観客”だからこそ、意識する音もある。

「選手の息遣い、足音が中継車まで鮮明に聞こえる。音声さんへ、今回はより拾うようお願いしています。運営管理車からの監督が選手に送る声も。あの声でレース、選手の動きはガラッと変わりますから」

スタジアムに人がいなかった時のプロ野球中継は、打球やミットの音、ベンチの声出しなどが、よく響いた。素の音に満ち、臨場感にあふれ、新鮮だった。それは箱根も同じだ。

“無観客”でも変わらぬ、美学が貫かれる。「あえてショーアップしない」。箱根の中継はずっとタレントを起用していない。主役は選手-。その精神が、脈々と受け継がれている。

「そのまま伝えるだけでも十分。過度な味付けはいらない。人生を懸けて、努力し、仲間の思いを背負い走る。走れぬ悔しさをこらえて支える。大会の歴史もある。我々日本テレビも他の中継でショーアップしている部分もありますし、それを否定するわけではありません。でも、やはり箱根駅伝はそうではない。だから、多くの人に長く愛されているのではないですか」

素の姿が、視聴率30%近い感動ドラマとなる。舞台に立つ21チーム210人の主人公たちはコロナに翻弄(ほんろう)されながら、箱根への思いは変わらない。つむぐ言葉は人々を引き付ける。