<世界陸上>◇3日◇男子200メートル決勝◇韓国・大邱スタジアム

 強いボルトが復活した-。男子200メートル決勝で世界記録保持者のウサイン・ボルト(25=ジャマイカ)が、今季最高記録の19秒40で2連覇した。100メートル決勝でフライング失格した教訓からスタート反応は最下位。それでも驚異的な加速で、自己3番目の記録をたたき出した。

 ボルトは、やはりボルトだった。200メートル決勝。会場のボルテージが高まる。テレビカメラに大映しされると、いつもの陽気なパフォーマスを繰り返した。これも勝利へのおまじない。俺は強い、勝てる-。闘争心のスイッチが入った。

 ピストルが鳴る。落ち着き払って飛び出した。そこから一気にまくった。大きなストライド。100メートルのコーナーを回り終えるころには、ディックス(米国)、ルメートル(フランス)らを後方に置き去りにした。100メートルの憂さ晴らし、とばかりにフィニッシュラインまで全力で突き抜ける。19秒40。今季世界最高で、ここ2シーズンでは自己ベスト記録だった。

 ボルト

 タイムを見て、狂喜したよ。だって体は全然、万全じゃなかった。なのに、こんなすばらしい記録だ。盛大な声援を送ってくれた会場のみなさんも、楽しんでくれただろう。

 昨年8月6日。宿敵タイソン・ゲイ(米国)に100メートルで敗れた。08年7月に、アサファ・パウエル(ジャマイカ)に屈して以来の黒星だった。その直後に腰とアキレス腱(けん)の痛みを訴え、9カ月間も休養に入った。復帰したのは今年5月。「今のボルトには付け入るスキがある」。そんな声があった。

 焦りからか、100メートル決勝で痛恨のフライング。しかし、これで目覚めた。「ファンには申し訳ないことをした。その分、自分はベストを尽くそうと思った」。歯を食いしばって走り、ゴールまで飛び込んだ。ボルトにとって、体を張った最高の「ファンサービス」だった。

 スタート反応は0秒193とビリ。加えてカーブのきつい3レーンでも、この記録だ。来年のロンドンでも、再びボルト旋風が吹き荒れそうな気配だ。世界記録への挑戦。未知の領域にも「まだ先のことは分からない。明日はリレーがある。いい準備をしたい」。レースの興奮が冷めると、もの静かな本来の姿に戻っていた。【佐藤隆志】