20日に開幕するグランプリ(GP)シリーズ第1戦のロシア杯(モスクワ)で本格シーズンを迎えます。そこでプロスケーターで元世界女王の安藤美姫さん(29)に、観戦ビギナーの井上真記者(52)が世のオジサンを代表して競技を見るためのポイントやルールを教えてもらいます。

    ◇   ◇

 井上記者 よろしくお願いします。

 安藤先生 こちらこそ、お願いします。なかなかない機会です。分かりやすくなるよう、頑張ります。

 井上記者 フィギュアスケートの選手には太った選手はいませんね。細いイメージです。なのによくあんなに回転できますね?

 安藤先生 確かに、見た目は筋骨隆々じゃないですよね。でも、女性なら3回転半、男性は4回転ジャンプを跳びます。その秘密は、太い大きな筋肉ではなく、インナーマッスルにあるんです。

 井上記者 それ! 聞いたことあります。

 安藤先生 ええ(でしょうね、という大人の対応)、それ! です。私は出産をしてから選手に復帰をしたのですが、その時にフィギュアの大変さにはじめて気づかされました。

 井上記者 と、いうと?

 安藤先生 ジャンプが跳べないんです。現役時代にはあれだけ苦もなく跳べた基本的なジャンプが全然跳べない。その時「使っている筋肉が違うんだ」って思い知りました。細くてきゃしゃな女性選手が、一見優雅に跳んでいるようですが、あれはすべて鍛え上げてきたインナーマッスルゆえのことなんです。

 井上記者 才能で跳べるとばかり思ってました。

 安藤先生 少しだけ、分かっていただけたみたいですね。そうなんです。簡単そうに演技しているように見えますが、そのベースにはフィギュアならではのフィジカルがあるんですよ。

 井上記者 なるほど。

 安藤先生 では、スケート靴のブレード(刃)について説明しますね。断面図にすると、こんな形になります。

 井上記者 えっ、こんな形してるんですか!

 安藤先生 インとアウトがあります。この独特のブレードの特質を使い分けて、ステップを踏んだり、ジャンプで踏み切る時に難度に変化をつけるんです。

 井上記者 インとアウトの高さは同じですか?

 安藤先生 いえ、それは選手によって違います。私は差をつけてもらっていました。ブレード担当の方に任せていましたが、爪の厚さほどの差がありました。

 井上記者 ほとんど分からないくらいの差ですね。

 安藤先生 ええ。本当に感覚的な違いですね。でも、その差があるとないのとでは、滑る感性は変わってきます。同じ長さが好きな選手もいますし、それは選手個々の好みによります。

 井上記者 そんな大前提も知らずに、漫然と見ていたわけですね(ため息)。

 安藤先生 (笑いながら)そうですね。でも、選手には当たり前でも、見ている皆さんには分からないですよね。そういう側面は、フィギュアは特に多いかもしれないですね。野球、サッカーとは見た目も、内面もだいぶ違ってきます。リンクがなければ練習もできません。そうした特質を少しでも知ってもらえると感じ方も変わってくると思います。「フィギュアスケート選手ってすごいんだ!」。そういう気持ちで見てくれれば、もっと演技を楽しめるようになると思います。(この項つづく)【取材・構成=井上真、高場泉穂】

 ◆安藤美姫(あんどう・みき)1987年(昭62)12月18日、名古屋市生まれ。8歳でスケートを始め、中京大中京高に進学。02年ジュニアGPファイナルで女子で史上初の4回転ジャンプに成功し優勝。06年スケートアメリカでGP初優勝。07年世界選手権で日本女子4人目の女王。11年大会で2度目の優勝。トリノ五輪15位、バンクーバー五輪5位。13年に引退。162センチ、49キロ。

 ◆井上真(いのうえ・まこと)1965年(昭40)1月4日、東京・小金井市生まれ。90年入社。野球、相撲、サッカー、一般スポーツなどを担当。入社当初はプロレス取材でサーベルをくわえた狂虎タイガー・ジェット・シンに追いかけられ、ワープロを捨てて逃げた。

安藤美姫さんは井上記者(手前右)にフィギュアスケートの魅力を語る(撮影・足立雅史)
安藤美姫さんは井上記者(手前右)にフィギュアスケートの魅力を語る(撮影・足立雅史)
スケート靴について説明する安藤美姫さん
スケート靴について説明する安藤美姫さん
安藤美姫さん(10年12月26日撮影)
安藤美姫さん(10年12月26日撮影)
フィギュアスケートの右靴
フィギュアスケートの右靴