チャンスは思わぬ形で巡ってきた。

19年ラグビーW杯日本大会以来の日本代表活動。大分・別府合宿2日目となった5月27日、日本協会からトヨタ自動車WTB高橋汰地(24)の追加招集が発表された。

故障で離脱者が出た影響だが、21年度の代表候補選手54人以外からの抜てきとなった。大阪・常翔学園高、明大と進み、入団3年目の高橋はかねて「『代表に入りたい』というのは、ラグビー選手誰しもが思うこと。チャンスをいただけるのであれば、自分らしさを前面に出してアピールしたい」と目標を掲げてきた。

今季の台頭を象徴するシーンがあった。5月19日、大阪・花園ラグビー場で行われたトップリーグ準決勝。相手はのちに優勝するパナソニックだった。前半16分。相手陣22メートルライン付近で、高橋は味方のパスを受けた。

数的優位ではなかった。目の前の相手を外、内と刻んだステップでかわした。

「福岡選手とのマッチアップは、今後のラグビー人生においても、いい経験になりました」

抜いた相手は19年W杯日本代表として大活躍し、医者の道へ進むため今季限りで現役引退したパナソニックWTB福岡堅樹(28)。自力で局面を打開すると、内から来た次の相手を、体を当てながら退けた。迫ってきた3人目のタックルを外しながら、最終形はこの日2本目のトライ。福岡に「自分のタックルミス」と言わしめるステップだった。

新人時代にほろ苦い思い出があった。約1年4カ月前の20年1月18日。豊田スタジアムで行われたパナソニック戦は、W杯の効果もあり3万7050人を集めた。高橋は開幕から2試合連続で先発。この日の対面も福岡だった。

「マッチアップの機会があったけれど、歯が立たなかった印象が残りました」

明大4年時には全国大学選手権決勝の天理大戦で勝ち越しトライ。大学日本一で卒業したルーキーは、世界で戦うWTBとの力の差を知った。

昨季は新型コロナウイルスの影響で、20年2月にリーグが打ち切られた。今季への準備期間は増えた。こだわったのは体の使い方。WTBは最も外側に陣取るため、ボール争奪戦となった際に、味方のサポートを受けづらい。「昨季は大外で相手にボールを渡してしまうシチュエーションが結構あった。ボディーコントロールでタックルされても、取られないように練習しました」。持ち味のスピードに加え、簡単に攻撃権を手渡さない力をつけた。

完敗だった20年、抜き去った21年。

福岡との2度のマッチアップは財産になった。

2回目の対戦後、高橋には自信と課題が残った。

「要所要所で強みのスピードと、フィジカルを見せられました。でも、今回は福岡選手にトライを3本も与えてしまった。まだまだ及ばなかった。今後のスキルアップに、つなげていきたいと思います」

トップリーグでの対戦機会はもうない。だからこそ、身をもって知った悔しさや、喜びには価値がある。

2年後にはW杯フランス大会を迎える。コロナ禍により、予定から1年遅れた日本代表の再始動。横一線のスタートラインに、楽しみな男が加わった。【ラグビー担当=松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)


◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーが中心。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当し、19年ラグビーW杯日本大会も取材。

トヨタ自動車WTB高橋汰地(2021年5月8日撮影)
トヨタ自動車WTB高橋汰地(2021年5月8日撮影)