毎年、箱根駅伝でレース展開とは別に注目していることがある。運営管理車に乗る監督が選手を鼓舞する言葉だ。今年も監督それぞれの個性があふれていて、興味深かった。

毎年、必ず注目するのは駒大・大八木弘明監督(63)。あの有名なゲキ「男だろ!」はいつ出るのか? 今年、耳をそばだてていると“異変”を感じた。2区を走るエース田沢廉(3年)に掛けた言葉だ。「お前いいよ、乗ってるよ!」。

「ごくろうさん! ありがとう!」。走り終えた田沢へのねぎらいの言葉もあった。田沢も大八木監督の“変化”に驚いた。「去年は『男だろ!』『ぶっ倒れてもいいからやれ!』と結構キツイ言葉なんですけど、今回はおっとりしたこと言ってくれた」。

大八木監督は厳格な昭和のお父さんをほうふつとさせる。厳しい“師匠”に褒められるとうれしくなる気持ちはよく分かる。田沢が監督に乗せられ、励まされる気持ちに思わず共感した。

圧勝した青学大・原晋監督も乗せ上手だ。選手の背景を絡めた声掛けがいい。キャッチーだ。

3区太田蒼生(1年)には「ヒーローになっていくよ! ヒーローに」。太田は原監督から「1年で箱根駅伝の選手になれたら、スーパースターになれるよ」を熱心に勧誘され、青学大進学を決めた。大会直前の壮行会で「箱根駅伝で僕がニューヒーローになれるような走りをできるよう、頑張っていきたい」と意気込んでいた。

4区飯田貴之(4年)には「また2番じゃダメだろう。最後、絞り出せ!」。飯田は4年連続出場。3年まで毎年区間2位だった。

そのほか、9区中村唯翔(3年)には「すごいな、時計が止まったかと思った。大記録出していくよ」。鼓舞というよりも、もはや感心が入り交じっていた。新鮮だった。

来年以降も注目したい監督がまた1人、現れた。法大時代、「爆走王」として注目を集めた駿河台大・徳本一善監督(42)。駿河台大は初出場。31歳の今井隆生(4年)が最下位に転落した時のゲキは熱かった。

「謝ってきたらぶっ飛ばすぞ。全部起用したオレの責任。お前に今できることは何だ。死ぬ気で腕を振れ」

今井が走り終えると「ありがとう」とねぎらった。今井は涙を流して崩れ落ちた。今井にとって最後の箱根。とにかく思い切り走ってほしい。徳本監督が飛ばしたゲキに、今井への思いやりを感じた。

鼓舞する監督と受け止める選手。そこにもさまざまな思いを読み取ることができる。今年もさまざまなゲキに、見ているこちらも励まされ、元気づけられた。【近藤由美子】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)