PGAツアーのプレーオフ最終戦、ツアー選手権を制したのは23歳のサンダー・シャウフェレだった。

 シャウフェレはこの優勝で16-17年シーズンのポイントラインキング3位に入った。

 そして同ランキングで1、2位を獲得したジャスティン・トーマスとジョーダン・スピースはシャウフェレと同じ93年生まれ。本格的な世代交代となったシーズンといえるかもしれない。

 最終戦での優勝を逃したものの、ランキングトップだったトーマスは全米プロを含む、年間5勝。これは今シーズンで最も多い勝利数だった。

ジャスティン・トーマスのスイング
ジャスティン・トーマスのスイング

●インパクトで両足が地面から浮く

 トーマスのスイングの最大の特徴は下半身にある。インパクトではほぼ両足が地面から離れるほど、地面を蹴り上げる動きがみられる。いわゆる「地面反力」を生かしたスイングの典型だ。下側にエネルギーをかけ、跳ね返ってきた力を回転に変えることで、自分の筋力で腰を回したり腕を振ったりするよりもはるかに大きな力を出すことができる。

 最近いろいろなところで地面反力を生かしたスイングの説明をしているが、ここまで顕著に下半身が浮く選手は稀だ。とても分かりやすい例で一目瞭然。

 この下半身が浮く動きは、ジュニアに多くみられる。ジュニアは身長が低く体重も軽い。その上、筋力がないため「どうしたら重いクラブを速く振れるか」を試行錯誤しながら、自ら答えを探し出す。その答えの一つが、地面反力だ。腕に力を入れて振り下ろすよりも、ダウンスイングでピョンと跳ねることでヘッドが走るという「答え」に自然と行きつくのだ。

 同じように年齢の低い子どもたちは、何も教えないとほぼ100%、ベースボールグリップでクラブを握る。これは握力がない中で、どの方法がもっとも力が入りやすいか考えた結果だ。子どもたちの体や考え方は実にシンプルである。

●ジュニア特有の癖が残る理由

 トーマスの地面反力を生かした動きは、ジュニア時代に発見した「答え」を変えることなく、これまでやってきたことの表れだ。多くの選手がプロになる過程でこういった独特の癖を修正されるなかで、トーマスの地面を蹴る動きがそのまま残った理由は2つ考えられる。

 1つはフィジカル面だ。トーマスの身長は178センチと、PGAツアーに参戦する選手の中では大柄なほうではなく、70キロに満たない体重はかなり軽い部類に入る。自らの筋力や四肢の長さから生み出される遠心力が小さい分を、地面反力で補っているのだ。

 もう一つの理由はコーチの存在だ。

 トーマスのコーチを務めるのは父親で、プロゴルファーのマイク・トーマスだ。父親として幼少期からスイングを見てきたことから、スイングの特性や成り立ちを熟知している。その中でトーマス自身の武器である飛距離を最大限に発揮させる方法として、インパクト付近で地面を蹴る動きを残したのだ。

ティーショットを放つ畑岡奈紗(2017年9月24日撮影)
ティーショットを放つ畑岡奈紗(2017年9月24日撮影)

 40年ぶり2人目となる日本女子オープン連覇の偉業を達成した畑岡奈紗もゴルフを始めた当初からジャンプする動きをしていたという。

 「アドレスの骨盤の角度が変わって伸び上がりすぎないように気を付けています」

 高校生のころから畑岡を指導する日本ゴルフ協会ナショナルチームヘッドコーチ、ガース・ジョーンズ氏はこの飛距離の根源であるジャンプする動きを残しながら、前傾角度起き上がって振り遅れのミスにならないように気を付けている。

 オーストラリアでコーチングを学んだジョーンズ氏の卓越した指導力によって、畑岡の長所を伸ばし、弱点を補ったことで飛距離と方向性を兼ね備えることができたのだろう。

 アマチュアの人もコーチの指導を仰ぐと、いくつかの点を修正されることだろう。その修正点の中で「これは取り入れたけれど、ちょっと気持ちが悪い」と感じたなら、無理に修正する必要はない。人の身体はそれぞれが違うし、どんな人にでも合うスイング理論は存在しないため、取捨選択が必要だ。取り入れてみて「気持ちが悪い」と感じパフォーマンスが落ちたなら、ジャスティン・トーマスや畑岡奈紗のようにそれがあなたの強みとなる個性なのかもしれない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)