自分にはどのタイプのコーチが合うのか?

 指導者にとって知識や理論などと同じくらい大事なのが、選手とのコミュニケーションだ。コーチによってさまざまなバックボーンがありスイング理論が異なるように、コミュニケーションをとる方法もコーチによってさまざまだ。どんなに知識を持ったコーチでもコミュニケーションがうまくいかなければ、選手のパフォーマンスを向上させる事はできない。そして、レッスンを受ける側も様々なタイプのコーチがいて、そこから自分に合う人物を見つけることが重要になる。


●道筋をしっかりと作るレッドベター


 2017年のPGAティーチャー・オブ・ザ・イヤーに選出されるなど、米国でティーチングの先駆者として今も高い人気を誇るデビッド・レッドベター。かつて、自らのスイング理論を体系化してレッスン書にまとめた『アスレチックスイング』や、スイングの再現性を高める事に主眼を置いた『Aスイング』といった著書がある事でも有名だ。

Aスイングに関するデモンストレーションをするレッドベター氏
Aスイングに関するデモンストレーションをするレッドベター氏

 レッドベターのように自らの理論を持つインストラクターは、選手のスイングをその理論の理想の形に近づけるようにティーチングをしていく。そのためレッドベターのようなインストラクターの教え子はスイングを見ただけで「これはあのコーチのスイングだ」と分かる。

 スイングのゴールが明確なため、師事する選手はそのコーチの考え方やスイング理論に共感できるかが成功の鍵を握る。まさに「信じる者は救われる」という関係が大事だ。逆に自身がなりたいスイング像を持っている理論派の選手や、コーチにはチェックやアドバイスを求めるだけというタイプは合わない。

 アベレージゴルファーはレッドベターのような「型にはめる」タイプのコーチが合うだろう。1から10までスイングを組み立てる必要があるため、一貫してゴールまでの道筋を組み立ててくれる教え方が合うのだ。言われたことを素直に聞き、それを根気よく実行できれば成功が見えてくるだろう。


●納得するまで説明をするコーウェン


 ヘンリク・ステンソンやダニー・ウィレットなど多くのPGAツアー選手のコーチを務めるピート・コーウェンは、「生まれながらのティーチャー」だ。コーウェンは「スパイラルスイング」という独自理論を提唱し、プレーヤーに対して理由と解決方法を納得するまで教えてくれるタイプだ。

コーウェン氏(右)とステンソン
コーウェン氏(右)とステンソン

 2016年の全英オープン練習日に練習場でコーウェンと契約選手のヘンリク・ステンソンはボールを一球も打たずに1時間半に渡って議論していた。お互い身振り手振りを交え、時には大声を出しながらまるでケンカをしているような激しいやり取りだった。前週の試合であまりよい内容ではなかったので立て直すのが難しいかと思ったが、ステンソンはこの試合で大会最少ストローク記録を更新してクラレットジャグを手にした。ステンソンは自身の状況をコーウェンと納得するまで議論し、試合に向けて行う事を明確にすることで好結果につながったのだろう。

 何事も裏付けを重要にするロジカルタイプの人や、自分が持っている疑問点の答えが欲しい人が合っている。ちなみに私は自分自身が納得してから行動に移したい「理にかなったこと」を重視するタイプなので、自分のことを「説明タイプ」の指導者だと思っている。


●コミュニケーションを重視するハーモン


 コーウェンよりもさらにプレーヤーに寄り添っていくのが、かつてタイガー・ウッズのコーチを務めたこともある、ブッチ・ハーモンのようなタイプだ。

 ハーモンは技術的な事を教えるよりも、相手を観察してメンタル部分のアプローチを用いながら選手のパフォーマンスを最大限に発揮させることに長けている。たとえスイングに問題があるとしても、当面は問題点を改造するよりも結果が出そうだとなれば、技術的な変更を行わない事もある。

 相手を観察する部分はスイングだけにとどまらない。ブッチ・ハーモンに指導を受けた際、専属のアシスタントがいるにも関わらずボールをティーアップしてくれたり、キャディーバックを運ぶなど細かい気配りをしてくれた。今まで大物コーチに指導を受けてきたが、そのような気遣いをしてくれたのはハーモンだけだった。

 前途のように些細なことでも相手が何がしたかを察知してコミュニケーションしてくれるので、自分にある程度スイングの知識がある人や、プライドが高い選手はこういったタイプのコーチと相性が良い。何かを教わるより、「自分のやりたいことを手伝ってもらう」という関係を求めているならハーモンのようなコーチとタッグを組むと成功するだろう。

 プロのコーチがこのようにいろいろなタイプがあるように、アマチュアを教えるコーチにもさまざまなタイプがある。ついコーチを選ぶときは「どんなことを教えているか」という内容部分に目が行きがちだが、「どんなコミュニケーションをとるか」という点にも目を向けると、早いうちから結果がついてくるかもしれない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)