3年ほど前から話題になっているスイング理論に「GGスイング」がある。コーチのジョージ・ガンカス(G・G)が考案したことでそう呼ばれている(ビジネス上の理由で現在本人はこの名称を使えないらしい)。ガンカスがYouTubeなどを通じて世界に発信したところ、瞬く間に注目を浴びた。今は若手の注目株、マシュー・ウルフのコーチをするなど、PGAツアー選手にも信奉者がいる。


ガンカス(左)と筆者
ガンカス(左)と筆者

そんなガンカスに教わろうと、昨年7月に彼のレッスン施設を訪れたが、そのスイング理論と同様、一風変わったコーチだった。


■短パンにサンダル履きが定番スタイル


ガンカスとはトーナメント会場などで度々言葉を交わしたことがあり、以前から「本拠地でスイングメソッドを教えてほしい」と伝えていたのだが、やはり忙しいのか、なかなかアポイントメントが取れなかった。

昨年7月PGAツアー「3Mオープン」が開催されるミネソタ州ミネアポリス・TPCツインシティーズに行くと、練習日にマシュー・ウルフを指導しているガンカスを見つけた(ちなみにこの試合でウルフはプロ初勝利を挙げている)。ウルフのプレーを見ながらガンカスと歩きながら話をしていると、「今週末はいつもレッスンしているドライビングレンジにいるからいつでも来いよ」と誘いを受けた。

そんなこともあって、急きょその週末にミネソタ州からガンカスの本拠地があるカリフォルニア州ロサンゼルスまで移動して、レッスンを受けることにした。移動するといっても、ミネソタは五大湖の西側でカナダと国境を接する中西部の北側にある州。そこから、西海岸のロサンゼルスへ行くためには乗り継ぎを含めて5時間程度かかる。その旅路では運悪く経由地のデンバーで雷雨が発生し、着陸許可を待つために近隣の空港に着陸した。海外での移動トラブルには慣れているが、さすがに後ろの座席の5歳ほどの子供にシートを蹴られながら5時間も座席で機内待機させられたのには閉口した。

ロサンゼルス空港から車で1時間半ほどの場所に、ガンカスがいつもレッスンを行っているウェストレイクゴルフコースがある。庶民的なパブリックのゴルフ場といった雰囲気だ。ガンカスは午前中からアマチュアの指導をしているというので、丸1日ガンカスの指導を見学することにした。


ガンカスにスイング分析を受ける筆者
ガンカスにスイング分析を受ける筆者

驚いたのは彼の服装。シャツを出し、短パンにサンダル履きというなんともカジュアルな服装だった。いつもと変わらない格好なのだそうだが、失礼を承知で言えば、練習場によくいるようなアドバイス好きなおじさんにしか見えない。少なくともサンダル履きのコーチなんて初めて見た。少しアウトローな雰囲気で型破りなスタイルは、ゴルフティーチング界のジョン・デイリーといったところだろうか。


■飛ぶ人が方向性を重視するためのスイング


一通りアマチュアへのレッスンを見学し、一段落したところでガンカスからレッスンを受けることになった。

「ヒロ、まずは打ってみろ」

ガンカスにクラブを渡され、数発打つ。

ガンカスの弟子たちが「なかなかいいスイングしているな!」とほめてくれたが、ガンカスは「オレは気に入らんな」と吐き捨てるように言い放った。


シャローでシャットなフェース使いをアドバイスしてもらった
シャローでシャットなフェース使いをアドバイスしてもらった

スマートフォンで私のスイング動画を撮った後、ガンカス劇場が始まった。ガンカスのレッスンは熱い。歯切れのいい言葉で、自信満々に持論を展開していく。レッスンを受けるものだけではなく、周りの人もその勢いに圧倒されていく。質問をする隙も与えず、至近距離から機関銃のように言葉を浴びせ、ボディーアクションと密着指導によって動きを覚えこませる。時にはプロレスの技をかけられているのかと思うほど体を押さえつけられ、理想的な動きを体にたたき込まれた。ここまで怒涛の勢いを感じるレッスンはそうそうお目にかかれない。このレッスンの熱さがカリスマ性を生み、人をひきつけるのだろう。


プロレスの技をかけられたような感覚に悲鳴をあげる筆者
プロレスの技をかけられたような感覚に悲鳴をあげる筆者

技術的な点に関しては、ガンカスから「フェースをシャットに使え」というアドバイスをもらった。ダウンスイングでシャフトが地面と水平になったあたりで、フェースを45度くらいになるように地面に向ける。そして、フェース面と手首を返さずにフォロースルーまで振り抜いていく。さらに「クラブをリリースしないで使え」という言葉とともに、体の使い方の指導が始まった。ガンカスの代名詞ともいえる「ガニ股」のダウンスイングと、フォローにかけて下半身と腰を先行させ押し込むように使う動きだ。

ガンカス本人から直接指導を受けた私の印象は「これまでに米国で生まれたスイング理論のいいとこ取り」というものだ。オリジナルのスイング理論のように見えて、いくつもの理論が組み合わさっているように感じる。スイング理論に関して相当勉強してきたことがうかがえる。


生徒は大柄で若い世代が中心
生徒は大柄で若い世代が中心

もう一つ、ガンカスのスイングを行って感じたことは、このスイングモデルは体を鍛えている人、若くて体力がある人向けだということだ。ガンカスのレッスンを受けに来ている生徒たちは一様にマッチョででかい。190センチ以上ある学生やボディービルダーのようなマッチョなアマチュアがレッスンを受けに来ていた。アジア人でも日本ツアーで活躍するチャン・キム(188センチ105キロ)のように結果を出している選手は大柄な選手が多い。体を先行させフェース面を変えないことをメインコンセプトとしているこの打ち方は、飛ばすためのスイングではなく、もともと飛ぶ選手が曲げないためのスイングモデルなのだ。


体に動きを覚えこませるガンカス流指導
体に動きを覚えこませるガンカス流指導

私は選手時代にガンカスのスイングモデルに近いスイングをしていた。飛距離はそれなりに出るタイプだったし、体も鍛えていたので、方向性を重視するシャットフェースのスイングモデルを採用していた。その結果、飛距離は少し落ちたものの、方向性は格段に良くなった。現在も適度にトレーニングはしているし、一般的な日本人よりサイズは大きい(182センチ78キロ)とはいえ、41歳という年齢では体への負担が心配だし、このスイングで飛距離を出すことは難しいと感じた。

ガンカスは60歳前後と思われる年配のゴルファーには、大柄な若者たちに教えていた内容とは違うことを教えていた。年齢や体格も違う多くのゴルファーを指導する以上、そうなるのも必然のような気がする。彼の指導するメソッドはだれでも使える普遍的なものだとは、本人自身も思ってはいないのだろう。


特徴的なガニ股ポーズにも快くこたえてくれた
特徴的なガニ股ポーズにも快くこたえてくれた

このスイングモデルが私に合うかどうかは大した問題ではない。自分と考えの違うコーチから指導を受けることで気づきを得ること、このスイングモデルが合う選手やアマチュアに指導する際の引き出しを増やすことが大事だと考えている。

異なるスイングモデルや指導方法を学ぶことができ、気分よくLAから日本への帰路につくことができた。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/