昨年は新型コロナ感染症の拡大で秋に延期となったマスターズだが、今年は例年通り、4月第2週の今週8日から11日まで行われる。かつては経験を生かしやすい大会でベテランが順当に優勝することの多い大会と言われてきたが、近年は若手の躍進も目立ってきた。今年のマスターズの覇者はどの選手か、世界ランキングの獲得ポイントを手がかりに優勝候補を挙げてみたい。

■世界ランキング獲得ポイント上位7名の争い

この記事を書いている4月6日現在の世界ランキングの1位はダスティン・ジョンソン、2位はジャスティン・トーマス。圧倒的な飛距離で注目を集めているブライソン・デシャンボーは5位につけている。しかし、世界ランキングの順位は2年間のポイントの平均で決まるため、最近の調子を反映しているとは言いがたい。そこで、今年に入ってからの獲得ポイントを見てみようと思う。


ジャスティン・トーマス
ジャスティン・トーマス

今年に入ってからの獲得ポイントが最も多いのが、3月末のデルテクノロジーズ・マッチプレーで優勝したビリー・ホーシェルの121.77ポイント、次いでジャスティン・トーマスの120.01ポイントだ。ほかに100ポイントを超えている選手にトニー・フィナウ、ブライソン・デシャンボーがいる。上位で90ポイント以上の選手となれば、コリン・モリカワ、ブルックス・ケプカ、ポール・ケーシー、リー・ウェストウッド、マックス・ホーマ、ジョーダン・スピースといった名前が挙がる。

優勝争いはこれらの選手が中心になると思われるが、ケプカは最近、右膝の手術を受けたばかりだし、ホーシェルのポイントの高さはマッチプレーでの優勝のため参考にならないかもしれない。フィナウもトップ5に入った回数が多いものの、2016年のプエルトリコオープン以来、しばらく優勝から遠ざかっている。ホーマはPGAツアー通算で2勝しているものの、メジャーでの最高位は64位と経験不足は否めない。この4人を優勝候補として推すには、それぞれ足りない部分があるように思う。

そうなると、現在、好調をキープしていて優勝争いに絡みそうな選手は7人に絞られる。

■デシャンボーを中心にJ・トーマス、モリカワらの争いか

この7人の中で中心になる人物は、世界ランキング5位、フェデックスカップランキング1位のブライソン・デシャンボーだ。デシャンボーはなんといっても飛距離のアドバンテージが大きい。距離が長いとは言えないオーガスタナショナルGCでは、飛距離が出れば2打目の距離が短くなり難易度が下がる。特にデシャンボーの場合、すべてのパー5で2打目をアイアンで打てるので、パー5がパー4状態になる。飛距離を生かすためにはショットの方向性がカギになるが、先月のアーノルド・パーマー招待で、ベイヒルCCの狭くて難しいコースを攻略して優勝したことも自信になっているに違いない。

また、デシャンボーは昨秋のマスターズで直前の4週を休んで調整に充てたが、試合勘を失っていたように思う。その点、今回は試合をしながら調子を維持しており、いい状態で試合に臨めるのではないだろうか。4つのパー5と、短いパー4の3番ホールでしっかりとバーディーを奪うゴルフを展開し、オーガスタナショナルGCをパー67としてプレーすれば、グリーンジャケットに最も近い選手だといえるだろう。


ブライソン・デシャンボー(AP)
ブライソン・デシャンボー(AP)

デシャンボーに対抗するのは、オールラウンドプレーヤーのジャスティン・トーマスだろう。3月のザ・プレーヤーズ選手権で優勝し、世界ランキング2位、フェデックスカップランキング2位と好調を維持し、このところゴルフの内容も安定しているように見える。

仲の良いタイガー・ウッズが交通事故で重傷を負ったことはショックだっただろうが、それを「タイガーのために」というモチベーションに変えられれば、手ごわい存在となる。

世界ランキング4位コリン・モリカワは、デシャンボーら長距離ヒッターと比べれば飛距離で劣るものの、ショットの精度が高く、パッティングも安定しており、オーガスタに向いているタイプのゴルファーといる。飛距離のデシャンボーに対し、モリカワが精度で応戦する展開が見られるかもしれない。

■ウェストウッドとケーシーのベテラン勢にも注目

2019年のマスターズでタイガー・ウッズが43歳で復活優勝を遂げたように、オーガスタは経験が生きるコースだということを考えれば、世界ランキング18位のポール・ケーシーと、20位のリー・ウェストウッドのベテラン勢もあなどれない。


ピーター・コスティスに指導を受けるポール・ケーシー
ピーター・コスティスに指導を受けるポール・ケーシー

今年44歳になるポール・ケーシーは、今年1月の欧州ツアー、オメガドバイデザートクラシックで優勝し、今年に入って出場した7試合のうち、5試合はベスト10フィニッシュと好調を維持している。ケーシーは昨年、コロナ禍でツアーが中断した後、練習も満足にできない状況となり、一時期精神的にかなり落ち込んでいたそうだ。しかし、その期間を利用してコーチのピーター・コスティスと基本の見直しを行って見事復活を果たした。昨年の全米プロでは優勝争い演じるなど、メジャーでの戦い方も熟知している。危機を乗り越えて心身ともに充実しているだけに期するものはあるはずだ。

4月下旬には48歳になるウェストウッドは昨年、欧州ツアーの年間王者となったほか、今年に入ってもアーノルド・パーマー招待、ザ・プレーヤーズ選手権と2週連続で2位になるなど好調だ。キャディを務める婚約者のヘレン・ストーリーさんの本職はフィットネスインストラクターで、一緒にトレーニングやストレッチを行ってフィジカル面を改善しているという。コース内外での彼女の献身的なサポートも好調の一因だろう。

■復活優勝のスピースが優勝候補に急浮上

マスターズ前週に地元テキサスで行われた、バレロテキサスオープンで4年ぶりの復活優勝を果たしたジョーダン・スピースも有力な優勝候補だ。マスターズとの相性は抜群で、出場した7試合中4試合で3位以内のポジションでフィニッシュしている。オーガスタナショナルGCの攻略方法を知るスピースが、勢いに乗って再びグリーンジャケットに袖を通すというシナリオは十分考えられる。


2017年のマスターズ出場時のスピース。強かったころのゴルフがよみがえるか
2017年のマスターズ出場時のスピース。強かったころのゴルフがよみがえるか

獲得ポイントが低い選手の中から大穴として名前を挙げるなら、世界ランキング10位、フェデックスカップランキング3位のパトリック・キャントレーだろう。アメリカンエキスプレスでは2位、AT&Tでは3位と、今年に入ってから上位でのフィニッシュがあり、十分にチャンスがある。力感のないスイングから飛距離と方向性を兼ね備えたショットを放ち、パッティングもうまく、メンタル的にも常に冷静でスキがない。いつメジャーに勝ってもおかしくないスキルを持った選手だ。

世界ランキングの獲得ポイントからみれば、今年のマスターズはデシャンボーを中心にこうした選手らの戦いになるとみられる。果たして、今年のマスターズではどのようなドラマが繰り広げられるのか。開幕を楽しみにしたい。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/