満を持して行われるはずだった国内女子ゴルフツアーの今年初戦、ダイキン・オーキッド・レディース(4~7日、沖縄・琉球GC)で、選手が大会会場で最終調整できない事態に見舞われた。選手、関係者ら全1201人を対象に行われた、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性判定者が2人出た。これを受けて、開幕前日の3日に、会場は消毒作業などが行われた。選手、キャディーらは立ち入ることができなかった。各選手とも今年1年の弾みをつけたい中、開幕直前に、練習場所の確保などに追われることになった。

日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の小林浩美会長は、3日に行ったオンラインの会見で「選手には申し訳ない」と謝った。陽性判定者のうち、1人は会場での業務に携わる前に判明。全く大会に関与しなかったが、問題となったのがもう1人。屋外仮設物施工業務に携わっていた人物だ。2月27日にPCR検査を受検したが、検査結果が出る以前のその日のうちに、早速、会場で午前8時30分から午後5時まで業務にあたっていた。翌28日には同じ検体を使って再検査となり、3月2日夜に陽性判定が出た。その2日も午前9時から午後6時まで会場で業務にあたっていた。

新型コロナウイルスに関するガイドラインでは、陰性が証明されるまで、大会に関与することは禁じられている。小林会長、大会実行委員長で主催のダイキン工業竹中直文常務執行役員は「一部のセクションで徹底できなかった」と、口をそろえた。また「今後は徹底したい」とも口にした。だが「徹底」とは何なのか?

ゴルフのツアーを開催するには、毎試合、相当数の外部業者に業務を委託しなければならない。今回、問題となった屋外仮設物施工業などの業務は、仕事を委託した会社以外、通常は予備の会社などまで準備しない。委託された会社は、従業員の生活を保障したい事情もあり、仕事を手放したくない思いも少なからず生まれるはずだ。また、多忙を極めていたり、直前まで誰がどの現場に行くか決まらないほど人手が足りていなかったり、などという事情もあったかもしれない。思惑と事情を抱えた相手に「徹底」を強いるのは困難を極める。

今回は幸い、濃厚接触者がいなかったため、予定通り開催にこぎ着けた。だが一歩間違っていれば、大会は巨額の赤字を出し、この屋外仮設物施行業務の会社は、損害賠償として主催者やJLPGAから、数十億円を求められても仕方ないほどの過失を犯していたかもしれない。何より、この日のために準備してきた選手らの努力を、全て無駄にしていたかもしれない。

よくスポーツの世界では「たら」「れば」は禁物と言われる。だが仮に1試合中止となったことで、6月末に決まるオリンピック(五輪)出場権を、わずかに手にできない選手が出たとしたら…。その選手からしたら、今回のようなケースで貴重な1試合が中止に追いやられていたとしたら、悔やむに悔やみきれないだろう。

新型コロナウイルスの陽性反応を示した人が重症などではなく、無症状だから言えるのかもしれないが、今回のようなケースには憤りとむなしさを感じた。どんなに努力している人がいても、無関係と思っている部外者の不注意一つで、その努力が全て無駄になるかもしれないからだ。「ガイドラインの徹底」と言うからには、相手との温度差を埋めなければならない。片手間の感覚でいる相手(業者)がいたとしたら、その目を覚まさせることから始めないといけないと思う。時には関係する業者に、高額の損害賠償を請求する可能性があることを迫るほど、本気で訴えていかなくてはいけない。これまで、さまざまなスポーツを取材してきたが、五輪で金メダルを取るような協会、チーム、スタッフは、思い返せば皆、そんな気概で選手を守っていたように思う。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

練習ラウンドが中止となったゴルフ場で消毒作業が行われる(撮影・清水貴仁)
練習ラウンドが中止となったゴルフ場で消毒作業が行われる(撮影・清水貴仁)